237 / 296

第237話

「ちゃんと調べはついているんだ。キミがご自宅に帰っていないというから、捜すのに多少苦労させられたがね。粟津家の運転手に送り迎えされて学園に通い、キミ自身は氷川貿易の社長宅で悠々自適の生活かね? 随分といいご身分だね、冰君?」 「……ッ……」  冰はひと言も返せなかった。  確かに、川西の言う通り、氷川や帝斗の厚意に甘えっ放しなのは事実だからだ。  それにつけ込むかのように、川西は更に冰を追い詰めるようなことをツラツラと述べてみせた。 「粟津財閥はともかくとしても、私自身は氷川貿易さんに対しては何の面識もなければ、恨みもない。そんなお宅へ喧嘩を吹っ掛けるつもりも更々ないんだがね。だが、キミがあまりにも聞き分けがないようなら致し方ない――何か手立てを考えなければならないだろうね」 「……脅かすんですか……?」 「何だと?」 「……だって、そうでしょう……粟津さんや氷川さんには関係のないことです……!」 「そうとも。ちゃんと分かっているじゃないか。彼らには関係のないことだ。これはキミと私とキミの叔父上との間での話なのだからね。関係のない人々を巻き込みたくなかったら、素直に言うことを聞いた方が皆の為じゃないかね?」  どうあっても嫌だと言えないように追い詰められてゆく。まだ世間の何たるかを知らない冰を言いくるめるなど、川西らにとっては赤子の手をひねるようなものだった。  言葉に詰まる冰を前に、川西のもうひと言が更なる追い打ちを掛ける――。 「ところで、氷川貿易さんにはキミと同い年のご嫡男がいらっしゃるそうだが――」 「――――!?」  その言葉に、冰はギョッとしたように顔を上げて、川西を振り返った。 「白夜君とかいったか――、彼はキミのお友達かい? 正直なところ、粟津財閥の(せがれ)に手を出すのはなかなか難しいところもあるがね。粟津といえば大財閥だし、如何に私とて、易々とは手出しできん。――が、氷川貿易くらいの企業なら話は別だ」 「……何を……ッ、何をなさる気ですか……!」 「聞くところによると、氷川貿易の(せがれ)さんってのは、学園でもあまり素行が良い方ではないらしいじゃないか? 街の不良連中を(けしか)けて、警察沙汰にするくらいならワケもないことなんだよ? 若者同士の小競り合いが原因で、彼を少年院行きになんぞしたくはないだろう?」 「そんな……ッ!」  冰は蒼白となった。 「白夜は関係ないでしょう! 彼に手出しをするのはやめてくれ!」  額には冷や汗、青ざめ震える唇を何とか抑えて、冰は決死といった勢いでそう叫んだ。

ともだちにシェアしよう!