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第241話

「いえ……私は見たことのないヤツです。けど、学生鞄を持っていたんで、冰の友達かも知れません」 「友達だ? まさかだろう。この邸は誰も知らんはずだ」  川西はそう吐き捨てると同時に、冰をさらってきた二人の男に、 「まさか――あんたら、付けられたのか?」少々遠慮がちながらもそう訊いた。  男たちはヤクザの息の掛かった関係者だ。如何に川西とて、そう大きな態度では出られないのだろう。だが、彼らが冰を連れて来てから既に一時間以上は経過している。誰かが後を付けて来たのなら、少々時間的には合わないといえる。  皆が考えあぐねていると、冰の叔父がハッとしたように川西を見やった。 「まさか……冰が一緒に暮らしているっている氷川貿易のところの(せがれ)……でしょうか?」 「氷川の倅だと? だが、どうやってここを嗅ぎ付けたというんだ」  しびれを切らした川西が、自ら確認しに部屋を出て行こうとしたその時だった。 「冰ッ――! 冰、いるのか!? 冰、いたら返事しろ!」  けたたましく扉を叩く音と共に、誰かが玄関先で叫んでいるのが聞こえてきた。 「誰か――! 誰か、いねえか! ここを開けろ! 冰! 冰、いねえのかッ!?」  その声を聞くなり、冰が飛び上がる勢いで叫び返した。 「白夜……!」 「何だと――!?」  驚いたのは川西らだ。 「クソぅ……! まさか本当に氷川の倅だってのか!? どうやって嗅ぎ付けやがった!」 「そんなことより……このガキを隠した方がいいんじゃねえですか!?」  冰で遊ばんとしていた手下たちが、川西に言う。 「そ、そうだな……。仕方ねえ、一先ず地下室に放り込んでおけ! あそこなら防音効果もあるし、見つかることもねえだろう……。これ以上玄関先で騒がれちゃまずい」  大声で叫び続けられては、近隣が騒ぎ出さないとも限らない。不審がられない内に、とにかくは氷川貿易の倅らしきその男を追い返すしかない。焦った川西は、手下たちに言って、とりあえずは訪問者を家に迎え入れるしかなかった。 「一応、しらを切り通すつもりだが、ダメな場合は片付けてくれ――。ちょっと痛い目に遭わせて……後は氷川の家の近くの河川敷あたりに放置すればいい……。氷川の倅ってのは不良で有名らしいから、ガキ同士の(いさか)いってことでカタが付くだろう。どちらにしても我々に手が伸びることはない」  そうだ。こちらは大の男が揃っているし――中には裏社会の息の掛かった筋者もいる。高校生の一人や二人、何とでもなると踏んだのだろう、川西は割合落ち着いた様子で男たちにそう告げると、さっさと事を済ませて冰で遊ぶことを続行したいふうであった。

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