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第242話
ところがである。飛び込んで来た氷川は、川西らの想像を裏切って意外にも腕が達つことに苦戦させられる羽目となったのだ。
「あんたが川西不動産の社長か――。冰をさらって来たのは分かってるんだ! ヤツは何処だ!?」
「――何のことだ。いきなり他人の家を訪ねて来てワケの分からんことを。第一、キミはいったい誰だね?」
川西は苦虫を潰したような表情ながらも、極力落ち着いたふうを装いつつ、ソファにどかりと腰掛けたままでそう言い放った。
「は――! すっとぼけるのも大概にしろよ。俺は冰の友人だ!」
そう相槌を返しながら、部屋の隅っこに隠れるようにしている一人の中年男に気が付いて、そちらへと目をやった。見れば、アタッシュケースを抱きかかえながら気まずそうにしている。
「あんたは冰の叔父ってヤツだな? こっちはあんたらのことはすっかり調査済みなんだ! シラを切ったって無駄だぜ」
氷川は冰の叔父と川西については、ここひと月の間によくよく調べ上げていたので、彼らの顔写真もインターネットで確認済みだった。
「な……何をバカな……ガキの分際でふざけたことを……」
冰の叔父は川西とは違って、声も震え気味だ。例え高校生の氷川が相手であっても、自分たちのしている後ろ暗いことがバレたと思ったら、気が気でない様子である。案外、気の小さい男なのかも知れない。
そんな叔父を無視して、氷川は川西に食って掛かった。
「とにかく――とぼけたって無駄だ。冰を返してもらおうか」
さすがに不良で名高いというだけあってか、凄み方も大したものである。一高校生にしては堂々とし過ぎているし、体格からして立派で、大人顔負けであるのは認めざるを得ないところだ。
大の男数人を目の前にしても、怖じ気づく様子もない氷川に、川西は小さく舌打ちをしてみせた。どうやらこの氷川貿易の倅は、こちらのことを調べ上げたというその言葉通りに、いろいろと知ったふうであるのは確からしい。冰の叔父の顔まで割れているのなら、シラを切り通すのは難しいだろうか。
「――ったく、物分かりの悪い兄さんだな。キミは何か勘違いをしているようだ。キミのお友達など家には来ていないがね」
だが、さすがに川西は冰の叔父とは違ってふてぶてしい。あくまでシラを切り通すべく、ソファの上で足を組んだまま動こうともしない。
「あまり聞き分けがないようなら、致し方ない。こちらとしても、少々手荒くせざるを得ないが――どうする?」
おとなしく帰れとばかりに、凄みをきかせてそう言い放った。
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