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第243話

「は――、本性を見せやがったか。そんな脅しが通用すると思ってんのか? 何だったら不法侵入で警察に訴えてくれてもいいんだぜ」  氷川はそう言って不敵に笑ってみせた。  さすがに通報されるのはマズいわけだろう、一瞬だが苦虫を潰したような表情でひるんだ川西の隙を見て、部屋の中を捜し回る。――と、地下室から大声で叫び続けていた冰の声と、必死にドアを叩く物音が聞こえてきて、あっという間に居所がバレてしまったのだ。 「くそぅ! 何てこった!」  こうなってはもう隠しようがないと覚悟を決めたわけか、川西はソファから立ち上がると、 「仕方ねえ……二人共帰すわけにはいかねえ……。とりあえず……まとめて地下室へ放り込んでくれ!」  歯軋りをしながら筋者の男らに向かってそう言った。  そんな川西らを他所(よそ)に、地下室の入り口では氷川が扉を開けんと必死にドアノブを回していた。扉一枚を挟んで、すぐ向こう側からは冰が必死に叫ぶ声が聞こえてくる。 「冰! 冰、俺だ! 助けに来たぞ!」 「白夜――!? 本当に白夜なのか……!?」  防音が効いているのか、冰の声はくぐもってはいるものの、間違いなく本人だと分かる。 「冰! そっち側に鍵はねえのか!? おい、冰ッ!」  氷川の側からは鍵穴があるものの、しっかりと施錠されていてビクともしない。 「くそッ……ぶち破ってやる!」  氷川は持てる力の全てで、体当たりと蹴りを繰り返した。何度もそうする内に、取っ手にガタがきて、もう少しで蹴破れそうになる。――と、そこへ筋者の屈強な男が二人揃って追い掛けて来た。 「てめえ、このクソガキが!」 「ふざけやがって!」  男たちは二人掛かりで氷川を羽交い締めにし、だがその瞬間、(つい)には錠が外れて扉が開いた。冰の方からも体当たりをする内に取っ手ごと吹っ飛んだのだ。  扉の向こうには、割合深く急な階段が広がっていて、冰はそこを駆け上がってきたのだろう。こちらを見上げるような形で、必死の形相が視界に飛び込んできた。男たちを振り解き、その脇腹目掛けて素早く重い一撃を加えると、 「冰! 良かった……無事だったか……」 「白夜――!」  氷川は間髪入れずに冰を抱き締め、冰も無我夢中といったように愛しい男の腕の中へと飛び込んだ。 「……ッ、こんな地下室まで造ってやがったのか……」  階段の高さからして地下二階分くらいはありそうで、深く掘られた地下の部屋。常夜灯のようなものが点いているだけで、中は薄暗かったが、ベッドやソファが置かれているのだけは目視できた。恐らくはここで冰を辱めるつもりでいたのだろう――想像するだけで虫唾(むしず)が走るようだった。  その冰は、特に怪我を負っているふうでもなかったが、制服のシャツが引き裂かれたようにボタンが飛んでしまっていた。

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