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第3話

 他に珍しい例では、バイクで埠頭の端から海面めがけて全速力で突っ走り、どちらがギリギリの位置で停まれるかを競うという男気のある勝負などをした年もあったようだが、とにかくセックスを条件に出してくるなど前代未聞のことだった。しかも双方は男子校、過去にそんな例が無いのも頷ける話だ。  本気なのか冗談なのか、氷川の提案を聞いた一同は、その場にいた誰もが一瞬耳を疑った程だった。当の紫月も例に漏れず苦笑いをしながらも、滅法呆れたというように大袈裟なゼスチャーまでつけて深く溜息をついてみせる。 「てめえの冗談に付き合ってるヒマはねえんだよー。ほら、白帝の会長様も面倒臭えってなツラしてることだし、早いとこマトモな条件出せっての!」  挑発するように氷川の目の前に立ち、その顔を覗き込みながらそう言った。  だが、氷川はふざけるなと言いたげに片眉を吊り上げると、 「はん、他人《ひと》のせいにしてんじゃねえよ。俺は条件を変えるつもりなんぞねえな。白帝の奴らに手間掛けたくねえってんなら、てめえがさっさと脱ぎゃいいだけの話……」半ば小馬鹿にしたようにそう言い掛け、ちらりと白帝学園の粟津帝斗へと目をやった。――と、その時だ。帝斗の隣に見慣れない制服姿の男を見つけて、怪訝そうに片眉をしかめた。 「おい――ちょっと待っとけ」  氷川は紫月にそう言い残すと、一旦勝負を預けるようにして白帝学園の一団が固まっている方へと歩を向けた。そして、その中に混じっている一人の男の真正面へと立つ。側へ寄ってよくよく見れば、やはり白帝学園とは別の高校の生徒である。一見真面目そうだが、眼力のある結構な男前だ。これから対戦をしようとしている一之宮紫月とどこか似たような印象を受けるが、この男の方がほんの僅かに紫月よりも華奢といったところだろうか。  氷川はしばし怪訝そうにしながらも、ジロジロと彼を観察し、 「お前、白帝のヤツじゃねえな? こんなところで何してやがる」そう訊いた。  すると、すかさずそれに答えたのは白帝の会長である粟津帝斗の方だった。 「彼は僕の友人でね。楼蘭学園《ろうらんがくえん》の三年生さ。ここへは僕が誘ったんだ。いい暇潰し――じゃなかった、社会勉強になるだろうと思ってさ」

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