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第4話

 悪気のなさそうに、にこやかな表情でそんなことを口走った。お坊ちゃん学校に通う御曹司のくせに、不良と言われる自分たちを前にして度胸のいいことだと、氷川は若干呆れさせられたふうに苦笑を誘われる。だが、それよりも連れの男の方に興味を惹かれるわけか、未だジロジロと彼を観察視していた。 「――楼蘭、ね。ってことは、こいつもお坊ちゃんってわけだ」  楼蘭学園といえば、白帝学園と似たり寄ったりの進学校だ。ただ、隣の市にある為に普段はあまり見掛けることがない。しばし彼を凝視し続けていた氷川は、次第にニヤッとした不敵な笑みをたずさえながら言った。 「お前、名前は?」  どうにもこの男のことが気になって仕方がないらしい。  氷川は一応悪名高い桃陵学園で頭を張っているような器だから、傍目から見ても威圧感を感じさせる雰囲気を十分に持った男である。そんな彼に名を訊かれたりしようものなら、普通は怖じ気づくか尻込みするのが当たり前なので、きっとこの男も怯えたようにしてすぐに名乗ると信じて疑わなかったのだろう、少々冷やかすような上から目線でそう訊いたのだ。  ところが、だ。楼蘭学園の生徒だというその男の返事を聞くやいなや、少々驚いたように瞳を見開かされるハメとなった。 「――あんたに名乗る必要があるのか?」  男はえらく落ち着いた調子でそう返したのだ。しかも、酷く低い声音の、何とも言いようのない美声である。こんな声優がいたら、きっと『声』だけで相当モテるのだろうなと思わせるような色気をも伴ったようなそれだ。氷川はしばし切り返しの言葉に詰まるといった表情で、ポカンと彼を見つめてしまった。そして、ようやくと我を取り戻したように苦笑を浮かべると、 「言うじゃねえの。ますます興味が湧いた」  そう言ってグイと彼の胸ぐらを掴み上げた。その様子に驚いた帝斗が、 「ちょっと……キミ……! いきなり何をするんだ」  慌てたようにして割って入ったのをきっかけに、周囲も次第にザワザワと騒がしくなっていく。タイマン相手の紫月はもとより、この場に集まっている全員が、彼らに釘付けにさせられてしまった。本来の目的からはすっかり横道に逸れたような氷川の行動に唖然状態である。  だが、氷川はそんなことは気にも止めずといった調子で、まだ楼蘭学園の男に執着していた。 「楼蘭みてえなお坊ちゃん校にも――てめえみてえな野郎がいるなんてな」

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