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第247話

「冰……ひょ……うッ……!」  ベッド上へとなだれ込むようによじ登り、氷川は体当たりで男らを突き飛ばすと同時に、自らの全身で冰に覆い被さるようにして、彼を腹の中へと抱え込んだ。まるで親鳥が雛を抱き、守るかのように包み込んだ。 「白夜……白……ッ」  冰は驚きつつも、安堵の方が先立ったようにして、更に泣き崩れてしまった。氷川の胸にしがみ付き、絶対に放すものかと渾身の力を込めて抱き返す。 「そ……うだ、それで……い……。冰、俺を……放す……な」 「ん、うん、ん……白夜……白……っ」  二人は固く抱き合い、氷川は自らの身を盾にして、誰にも冰に触れさせないと持てる力の全てで彼の上に覆い被さっていた。 「くそぅ……、ガキ共が……しゃらくせえことしやがって!」 「早く引っぺがせ!」 「ってーかよ! 七面倒くせえ! いっそ二人まとめて()っちまうか!」  四人の男総出で、氷川を冰から引き剥がそうとベッドへと上がり込む。その内の一人がナイフを取り出して斬り付けようとした――その時だった。  ビシュッという鈍い音と共に、男の一人がベッド下へと転がり落ちた。 「――何だ!? おい、どうした!?」  そう叫んだもう一人も、瞬時に顔を真っ青にして、ベッド上で硬直してしまった。  ナイフは吹っ飛び、男は手を押さえながら「ギャアッ」と、凄まじい叫び声を上げ、のたうっている。別の男のこめかみからは僅かに白い煙が立ち――パラパラとシーツの上に何かが落ちていく様子を呆然と目で追う。と同時に、焦げた匂いが部屋中に立ち込めていく。シーツの上に落ちたのは、男の髪の毛だった。こめかみスレスレを掠めた何かが、男の髪を削ぎ落としたのだ。 「ギャッ……ギャアーッ! うおぁーッ、うおわぁーッ! ギャアーッ!」  何が起こったのかも分からないまま立ち尽くす川西らの背後から、ゆっくりと階段を降りてくる一人の男の存在に気付いて、皆は呆然としたように視線だけでそちらを見やった。 「な……何なんだ……お前は……」  事の次第が掴めないながらも、一人の見知らぬ男が現れたことで、この地下室の中の空気が瞬時に殺気へと変わったような気がしていた。それを本能で感じるわけか、川西がガクガクと声を震わせながら訊く。  男は何の返事もしないままでゆっくり階段を降りると、川西の側へと歩み寄り、有無を言わさずにその胸倉を掴み上げた。 「お前が首謀者か? このままあの世へ送ってやろうか」  地鳴りのするような低い声で、そう言いざまに川西を床へと突き飛ばした。 「ひぇーっ……! ひぁあーっ! た、助けてくれ! た、助け……」  男の手には拳銃が握られており、それを見て全員が硬直した。ナイフを吹っ飛ばし、髪をも削ぎ落としたのが発砲によるものだと理解したのだ。

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