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第249話

 ガウンと毛布に包まった冰が、ワゴン車の中でうつむいていた。隣では紫月が心配顔でそっと様子を見守っているといった状況だ。  氷川は重傷を負っている為、医療設備の積載してある別のワゴン車で移動していて、そちらには鐘崎が付き添っていた。無論、鐘崎の側近ともいえる源次郎と、普段鐘崎の側で仕えている主治医も一緒である。本当なら冰もこちらに乗せてやりたいところだったが、今は治療に専念すべきなので、彼の方は紫月に託してきたのだ。  前を走る氷川の乗った車を心配そうに気に掛けながらも、冰はただただ黙ったままで、時折身体を震わせていた。 「大丈夫か?」そっと、紫月が問う。  未遂とはいえ、服を剥かれて怖い目にあったばかりの彼に、どんな言葉を掛けてやればいいのかなど思い付くはずもない。紫月はただ黙って側にいてやることが、今の自分にできる唯一のことなのだと思っていた。  この冰とは面識がないわけではなかったが、会ったのは新学期の番格勝負の時、一度きりだ。話したこともなければ、人となりすら分からない。ただ、あの氷川が血相を変えて助けに向かったところを見ると、彼らはかなり親しい間柄なのだろうということだけは理解できていた。  それにしても、氷川とてこの冰という男と会ったのは、番格勝負の時が初めてだったはずだ。紫月は自分の知らないところで彼らがどんなふうに交流を重ねていたのかと不思議に思いつつも、だが、ひとつだけ確かだと思えることがあった。それは氷川と冰が互いを想い合っているのではないかということだった。  ふと――隣の冰がすすり泣く様子に気付いて、紫月はハタを彼を見やった。 「おい――平気か?」  そっと――手を伸ばし、カタカタと震えている冰の手に添える。 「ごめ……ごめんな……。だいじょぶ……だから」 「無理すんな?」  泣きたかったら我慢しないで泣いていいんだぜというように、添えた手に力を込める。 「少し……話してもい……?」うつむいたままで冰が言った。 「ああ、何でも――」 「ん、さんきゅ……な」  そう言うと、冰はポツリポツリと独り言のようにして話し出した。 「さっき……白夜と一緒に……このまま死んじまうかも知れねえって……思ったんだ。このまま死んじまってもいい……その方が楽だって……。俺、俺さ――あいつらにいろいろ……されて……白夜が助けに来てくれた時は嬉しかった。けど、その白夜も酷え目に遭わされて……もしもこのまま白夜と引き剥がされて……一人一人にされて……これ以上悲惨な目に遭うかもって思ったら……そんなの耐えられねえって」  紫月は、冰の気持ちが痛い程理解できる気がしていた。

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