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第250話

 話の流れで、冰が叔父という男に金で売られたらしいことを聞いていたのもあって、あの家で何をされようとしていたのかが聞かずとも分かったからだ。服を剥かれたこの姿からしても、たった一人で見知らぬ男らに陵辱され掛かっていたのだろうことは明らかだ。  氷川はそれを救おうと追い掛けて行ったのだろうが、その彼も酷い怪我を負わされていた。それでも尚、氷川は自分の身を犠牲にしてもこの冰を守り抜こうと必死に抗っていたのだろう。だが、もしも氷川がもっと酷い目に遭わされて、意識を失うような事態になったとしたら、その後もあの獣らは冰に襲い掛かったことだろう。それを想像すれば、いっそ死んだ方がマシだと思ってしまったとしても不思議ではない――紫月は、冰の苦渋の気持ちを考えると、彼をこんな目に遭わせた者たちが許せなかった。 「キミらが来てくれて……今こうしていられることも……助かったことも……夢なんじゃねえかって……。もしかしたら……まだ俺は……あそこにいて、あいつらに……」  助かったことさえ現実かどうか疑ってしまうくらい恐怖だったということなのだろう。 「そっか……。そっか。辛え思いをしたな。けど、もう大丈夫だからよ」  紫月は力強くそう言って、冰を励ました。 「ん――ありがと……。ありがと……。ごめん……な。俺、迷惑掛けて……ワケ分かんないこと、ベラベラと……」 「ンなこと気にすんな。話して少しでも楽になれんなら、何でも言えって」  握った掌に更に力を込めて、これは現実なんだ、夢なんかじゃなく、本当にもう助かったんだということを伝えんとする。そんな紫月に、冰はようやくと向き合うように顔を上げると、 「キミ、一之宮……君だろ? 四天学園の――」そう言って、また鼻をすすった。 「ああ。あんたは楼蘭学園だっけ? 番格対決ン時に来てたよな?」 「ん――。キミのこと、白夜から聞いた……んだ。白夜が……キミにした……酷いこと……も」 「――――!」  紫月は驚き、ハタと冰を見つめた。 「……あんた」 「ごめんな……。本当に……ごめん! 俺、キミに……こんなふうによくしてもらえる立場じゃねえのに――ほんとに……」  まるで我が事のように苦しげに顔を歪めて謝る冰に、紫月は驚きつつも、ふっと瞳を細めて微笑んだ。 「あのことなら……もう何とも思っちゃいねえよ。あれは俺にも非があったんだ。氷川を出し抜いて、番格対決ン時の要求を反故にしたのは俺ン方だ。氷川が怒るのも当然だしな」 「……! でも……! それでも……」  そうだ、いくら反故にしたの何のといったところで、氷川が紫月にしたことは、本来やっていいことではない。それに――氷川が手籠めにしたというその時、この紫月はたった一人で誰の助けも望めずに苦渋を味わったことに変わりはない。冰には、今の自分とその時の紫月の状況が重なるような気がして、居たたまれない思いがしていたのだった。

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