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第7話

 存外本気の様子でそんなことを言ってのけた。紫月にとってはますます嘲笑を誘われる言い草だ。 「は、前からイカれた野郎だとは思ってたけど……ここまで頭オカシイとはね。番格勝負に来て野郎をナンパかよ? しかもマジで俺を当て馬にするとか――」  呆れてモノも言えないぜとばかりに憐れみめいた笑いが止まらない。だが、ふと何事か閃いたわけか、紫月は氷川の襟元を掴むと、まるで濃厚に抱き合うように彼を引き寄せた。 「なあ、おい氷川――マジで当て馬になってやってもいいぜ? そん代わり、これで勝負はチャラにしねえ?」 「はあ!?」 「実際……てめえだってこんな大勢の前で、本気で俺を犯る度胸なんかねえだろうが? だったらそれなりにイチャつくのに付き合ってやっから、それで終いにしようって言ってんの!」  いい提案だろうとばかりに、紫月は上機嫌だ。相反して氷川にとっては、いささか相手にだけ都合の良すぎる話向きである。素直に同意できるはずもない。だが、少し冷静になって考えてみれば、この紫月の言うことにも一理ある気がするのも否めなかった。  実のところ、この場で本当に『行為』に及べるわけもないことは氷川にも分かっていた。本来、四天の連中を屈服させる為に無理難題な条件を突き付けてみせただけだからだ。当然、断ってくるのは目に見えているし、そうなれば適当にタイマン勝負でケリをつけるか、乱闘騒ぎにしてしまえばいい――と、そんなふうに思ってもいた。まさか予想に反して紫月がこんなふざけた条件を呑むなどとは思ってもみなかったから、その後のことなど想像さえしていなかったのだ。多少なりと苦い思いを堪えつつも、ここは紫月の提案に乗るしかないとも感じていた。 「ふん、仕方ねえな。それで手を打ってやる。その代わり、しっかり『イチャついて』もらうから覚悟しとけよ」  氷川はそう言うと、紫月の腕を乱暴に掴み上げて、倉庫中央に放置されている作業台の所まで引き摺るようにして連れて行った。  まあいい、どうせ半分は『やらせ』である。この際、少し際どいところまで追い詰めて、多少の恥をかかせてやればいい。それに、先程の楼蘭学園から見物に来たという雪吹冰という男の反応も楽しみだ。自分たちがまぐわり合う場面を見て、彼がどう思うだろうかなどと考えるだけでワクワクと気分が高揚してくる。まかり間違って彼が妬いてくれでもすれば面白い――無意識の内に氷川はそんなことを思い巡らせてもいた。

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