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第8話

「そんじゃ、始めるとするか――」  氷川は台の上に紫月を押し倒して縫い付けると、半分は開《はだ》けていたシャツのボタンの残りをビリリと引き裂いてみせた。 「……ッ! いきなり強姦かよ」  チッと吐き捨てるように侮蔑めいた笑みと共にそう言った紫月を組み敷くように、その腹の上へと馬乗りになった。 ――見下ろす姿は確かに憐れだ。  たった今、引き裂いたばかりのシャツと、そこから覗く素肌にゴクリと喉が鳴る。  想像を遙かに上回る、何とも言い難い淫らな『図』に予想外の欲情が疼き出す――  ほどよく付いた筋肉のわりには細い首筋、くっきりと浮き出た鎖骨、そして胸元には色白の肌に似つかわしくないような濃い目の突起が二つ、そのどれもが瞬時に妙な気分を誘ってくるようだ。ドキドキと早くなる心臓音を紛らわさんと、氷川はしどろもどろに口走った。 「何だ、てめえ……乳首真っ黒じゃねえかよ……もっと綺麗なピンクだと思ってたけどな」  卑猥な思いをそのままに『言葉』という形にしてみれば、それこそ想像もしていなかった程の欲情がこみ上げるようで、氷川は目の前の光景に酷く興奮していく自分に戸惑いさえ感じる程であった。  一方、紫月の方からしてみれば、自分を組み敷きながら興奮しているその様子が、何とも可笑しくて嘲笑を誘われる。今の氷川は学園の番格という硬派なイメージとはほど遠い、血気盛んなただの高校生にしか見えない。余裕の『ヨ』の字も感じられない、そんな様を嘲け笑うかのように、紫月はニヤリと瞳をゆるめてみせた。 「誰がオンナみてえなピンク色なんかしてっかよ。そーゆーてめえはどうなんだよ? 焦らしてねえでさっさと脱ぎゃいいじゃん。何なら俺が手伝ってやっか?」  まるで慣れっこだと言わんばかりにそう囁く。そして頭上の氷川を見上げながら、シャツごと胸ぐらを鷲掴みにするように引き寄せると、じっくりと焦らすように指でひとつひとつボタンを弾いていった。 「おい、何ボサッとしてんだ。イチャつくんだろ? 周りのギャラリーを退屈させちゃ悪りィだろうが」  まるでリードするかのようにそう言って笑う。チラリと横目に周囲を窺えば、紫月の言った通りに全員が唖然としたような表情で自分たちを凝視していることに気付かされる。氷川はガラにもなくカッと染まり掛けた頬の熱を紛らわさんと、紫月の髪を掴み上げた。 「……ッの、調子コイてんじゃねえぞ……てめ、マジで犯っちまってもいいんだぜ……!」  そんな脅しにも紫月の方はどこ吹く風だ。

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