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第255話 夏休み到来
氷川白夜と雪吹冰が一之宮道場へと通い出してから半月程が経った。頃は夏真っ盛り――梅雨明け宣言が出されて、皆は数日を待たずして高校最後の夏休みに突入しようとしていた。そんな或る日曜のことだった。
朝一からの稽古が終了し、氷川と冰、そして紫月もシャワーを終えて道場の縁側で一休みしていた時だ。鐘崎がよく冷えた梨をたんまりと携えて顔を見せたのだった。
「よう! そろそろ稽古が済む頃だろうと思ってな」
「おわ! 梨だ!」
クーラーボックスの中に詰められた大粒の梨に、三人は瞳を輝かせた。時刻は午後の一時になろうとしている。
「ちょうどいいや! お前ら、昼飯食ってかね?」
紫月が嬉しそうに梨を抱えながらそう言った。
「冰、ちょっと手伝ってくんね? 素麺でも茹でるべ!」
「あ、うん!」
鐘崎と氷川を残して、紫月は冰と共に台所へと走って行った。そんな後ろ姿を見つめながら、鐘崎は縁側に腰を下ろし、氷川と肩を並べた。
「調子はどうだ? 稽古、張り切ってるみてえだな」
「ああ、お陰様でな。一から十まで未知の世界って感じで驚くことだらけだ。師匠は稽古の時は厳しいけど、すっげえ真剣に教えてくれる。けど、稽古が終わればすっげフレンドリーでさ、いろいろ為になる話も聞かせてもらえるしな。それもこれもお前と一之宮のお陰だよ」
充実しているという様子が、氷川の表情からもよく分かる。
「そっか。そりゃ良かったな」
鐘崎も嬉しそうに瞳を細めた。
「ところで、お前の方は冰ってヤツと正式に一緒に住むことになったって聞いたが――」
源次郎を通してそんな話向きになったということを耳にしていた鐘崎は、氷川当人に向かってそう訊いた。
「ああ。お前らのお陰で、もう冰が狙われる心配もなくなったし、あいつ自身も自分の家に帰るつもりだったんだ。けど、冰の親父さんは未だ入院中で意識が戻らねえし、お袋さんは付きっきりで看病の毎日だ。俺の両親と冰のお袋さんと、白帝の粟津らも交えて皆で話し合ってな。引き続き冰をうちに預かることに決めたんだ」
危険はなくなったとはいえ、冰の父親が快復するまでは雪吹は粟津財閥の傘下であることに変わりない。粟津家の配慮で、雪吹家は実質的には元の体制を保ったまま、企業経営も順調であった。お陰で、冰の父親の入院費をはじめ、母親と冰の生活費なども心配はいらないといった状況だ。ただ、母親も都内の病院に行ったきりではあるし、冰を一人にしておくのは心配なところもあるのだろう。何より冰本人と氷川の気持ちとしては、離れ難いのはいうまでもない。ひと月以上を共に過ごした二人にとっては、平穏無事な元の生活に戻れることは喜ぶべきであると同時に、寂しいのもまた事実である。
そんな状況をすべて鑑みた上で、粟津家の帝斗らが皆にとって一番いい方法を提案したというわけだった。
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