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第257話 事件勃発

 そんなふうにして、鐘崎と氷川、紫月と冰の四人は、日一日と絆を深めつつ、楽しげな時を過ごしていた。  週が明けて、いよいよ前期の修了式を迎え――明日からは待ちに待った夏休みの到来だ。四人は、粟津帝斗と綾乃木も誘って、一緒に何処かリゾート地にでも遊びに行こうかなどという話向きになっていたのだった。  氷川と冰はそんな提案を帝斗に打ち明けようと、式後に駅前のフードコートで落ち合う約束をしていた。 「やあ、二人共、早かったね。お待たせしたかい?」  帝斗が綾乃木と共に手を振りながら現れた。 「いや、俺らもついさっき来たところだ」  四人は窓際のテーブルを確保すると、一緒にドリンク類を買いにカウンターへと向かった。  氷川と綾乃木はアイスコーヒーを注文し、冰と帝斗はかき氷を選ぶ。席に戻るとすぐに旅行誌を広げて、行く先の打ち合わせに花を咲かせ始めた。 「夏だからやっぱり南の島がいい? それともニューヨークとかの大都会って案もあるけど」  冰がパラパラと冊子をめくりながら訊けば、帝斗が、「南国リゾートならバリに別荘と、それからセイシェルにはウチの系列のホテルがあるよ」美味そうにかき氷をすくいながらそう言った。 「バリにセイシェルかぁ。さすが粟津財閥だな!」 「海でスキューバとかもオツだわな」  冰も氷川も目を輝かせる。 「バリだったらプライベートビーチ付きの別荘だから気兼ねなく遊べるよ。クルージングもできるし」  帝斗が当たり前のようにそんなことを口走ると、氷川と冰は互いの肩を突き合いながらますます話は盛り上がった。そんな時だ。 「ねえ、ちょっと見て。ほら、あそこ! 紫月と鐘崎君じゃない?」  遠目に四天学園の制服を着た一団を見つけた冰が、身を乗り出しながら言った。 「おや、ほんと。彼らも確か今日が修了式だもんね。考えることは皆同じだねぇ。これからお茶して帰るってところかな?」  帝斗もそう言い、皆でそちらを見やった。どうやら紫月らは二人きりではないらしく、側にはもう二人程が一緒のようだ。 「清水と橘だな。あいつら、四人でいつもツルんでっから」  氷川は事情をよく知っているようだ。鐘崎と紫月が二人きりならば、一緒に打ち合わせでもと思ったが、彼らにも付き合いがあるだろうし、旅行の相談はまた後日でもいいだろう。そう思い、今は遠慮することにした。  どうやら彼らは室内の席ではなく、表のテラス席の方に落ち着くようだ。鐘崎と清水、橘の三人はドリンクを買いに行くようで、紫月が一人で席取りの係らしい。そんな彼らを見つめながら、綾乃木が感心したように目を丸くしていた。 「やっぱり若者は違うなぁ。この暑いのに、進んでテラス席とは……。ああいうの見てると、俺はすっかりおじさんの気分だぜ」  大袈裟に落胆した綾乃木に、ドッと笑いが起こる。――と、その時だった。紫月が確保したテラス席の間近の車道に、目立つ真っ赤なスポーツカーが停まったのだ。

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