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第258話
「おわ! すっげー車!」
「ほんとだ!」
氷川と冰が興味を通り越した唖然の表情で車に見とれる。帝斗も綾乃木も同様で、「何だか銀座のど真ん中辺りに似合いそうな車だね」などと言っては感心顔でいた。
ところが、もっと驚かされたことに、その車の助手席からとんでもない美人の女が降りてきて、一同はますます釘付けにさせられてしまった。
「もしかして……モデルとか?」
「さあ……」
真っ赤な車とは対照的な真っ白なワンピースの裾を風になびかせて、颯爽と歩く。十センチはありそうなピンヒールは車と同じ鮮やかな赤だ。大きなツバの帽子を被って、サングラスまで掛けている。
「やっぱモデルか女優って雰囲気? 誰だろ」
「グラサンでツラが見えねえな」
氷川らのいる場所からではだいぶ距離があるので、よくよく目を凝らさないと分からない。
「なぁ、ちょっと一之宮の席に押し掛けてみっか? あそこなら近えから、よく見えっかも!」
「はぁ!? んもう! 白夜ったらよー」
女優張りのその女に興味を示す氷川に、冰が口を尖らせる。そんな二人に帝斗と綾乃木が苦笑した時だった。
「ねえ、ちょっと……! あの女 、紫月に向かって歩いてくよ!」
「ゲッ……! マジかよ!? まさか、ヤツの知り合いなのか!?」
女は紫月の腰掛けたすぐ脇に立つと、一言二言、何かを話し掛けたようだった。それとほぼ同時に、女の乗ってきた赤い車のすぐ後に四トン車くらいのトラックが停車した。助手席と運転席から男が二人降りてきて、女のところへ駆け寄る――腕には遠目からでも分かるくらいの派手な刺青が目立っている。一見したところ、外国人のようだ。
「何だ、あいつら……? ちょっと様子がおかしくない?」
冰が心配顔をした時だった。突如、男らが紫月を羽交い締めにしたと思ったら、口元にハンカチのようなものを押し付けた。おそらく何かの薬物だったのだろう、紫月はすぐに意識を失ってしまったようで、男らに抱えられ四トン車の中へと押し込まれてしまった。
その間、わずか数秒――まさに一瞬の出来事だった。
紫月を車に乗せたことで安心したわけか、女がサングラスを外して赤い車の助手席へと戻っていく。車の窓を開け、トラックの男たちに何か指示を出しているようだ。
「……まさか拉致!?」
「そんな……! 何で一之宮君が!?」
冰と帝斗が慌てる側で、氷川がスマートフォンを取り出し、カメラのズーム機能を使って様子を確認していた。
「思い出した! あの女、確か……」
「白夜、知ってるのか!?」
「ああ。多分だが、鐘崎の許嫁 とかって噂されてた香港の女じゃねえのか……?」
「許嫁ッ!?」
氷川から鐘崎と紫月の仲を聞いていた冰は、めっぽう驚いたといったふうに驚愕の叫び声を上げた。
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