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第11話 謎の転入生

「しっかし昨日の勝負ー! 今思い出しても腹よじれるっつーか! 紫月に蹴り上げられた時の氷川のツラったら!」 「ホント、マジすごかったよな? さすが紫月! けど最初はビビッたよな。マジで氷川にホらせちまうのかってヒヤヒヤしたんだぜ、俺ら!」  朝の教室の片隅でギャアギャアと大盛り上がりをしているのは、昨日の勝負に参加していた紫月の仲間たちだ。当の紫月を真ん中に囲んで、清水剛しみず ごうと橘京たちばな きょうらが彼を讃えるようにはやし立てていた。 「俺がそう簡単にケツなんかくれてやるわきゃねーだろ! 氷川の野郎があんましふざけたこと抜かすからよ、ちょっとおちょくってやろうと思ってさ?」  クククッと、いかにも可笑しそうに紫月は笑った。椅子の背にもたれてギィギィと斜めにしたり戻したりしながら、褒められて気分がいいのか得意満面だ。 「けどあの野郎、マジでイカれてんよな? お前らも見たろ、楼蘭学園から見物に来たとかいう野郎のこと」 「ああ……白帝の粟津とダチだとかいうヤツ? 結構な男前だったじゃん」 「そうだっけ? 俺りゃー、ツラなんかよく見なかったけどよ。氷川の野郎ったらあの場でナンパ始めたとかって聞いたけど、マジか?」  剛と京が揃ってそんなことを言う。紫月は可笑しそうに笑った。 「さあな、どこまで本気か分かったもんじゃねえが……。勝負放っぽって、やけにあの野郎に執着してやがったのは確かだわ」 「何? 氷川ってそっちの趣味かよ?」 「けど氷川っつったら、しょっちゅう違う女連れてるって有名じゃん。俺もガッコの帰りに駅前とかで何度か見掛けたことあるけどよ。いっつもわりかしイイ女と一緒にいるぜ?」  剛と京はさすがによく知っているものだ。確かに氷川は外見だけ見れば、女が一緒に歩きたがるのも分かるような風貌は認めざるを得ないところだ。何せズバ抜けた長身の上に、顔の作りだけをとっても嫌味なくらいに整っているのも否めない。加えて桃陵の不良連中からも一目置かれる番格とくれば、女たちが放っておかないのも頷けるところではある。  まあ紫月とて容姿の点でいえば氷川に負けず劣らずのいい勝負だから、そんな点でもライバル意識がくすぶるのか、何かと気に掛かるのは確かだ。 「つか、何? あいつって女だけじゃなく野郎の趣味もあるってことかよ」  京が興味本位でそう言えば、 「無きにしも非ずじゃね? じゃなきゃ、紫月をホりてえとかふざけた発想出てこねえだろ?」 「うへぇ、マジかよ! 要はヤれりゃ、何でもいいってこと? グローバル過ぎて付いてけねえわ」  京が呆れたように肩を竦めている。二人の会話を聞きながら、紫月はまたしても冷笑してみせた。

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