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第13話
一八一センチの自分よりも若干長身の出で立ちは、黙っていても存在感を見せ付ける。おおよそこの学園の校風にはそぐわないような身なりに反して目つきだけは鋭く感じられ、しかも側に寄ってよくよく見れば、これまた嫌味なくらいの整った顔立ちをしている。
物静かな仕草が威圧感までをも感じさせるようで、紫月をはじめ、皆はしばし唖然としたように彼に釘付けにさせられてしまった。
「よろしく」
丁寧に頭を下げつつも端的にひと言だけそう言って、やはり物静かな所作で椅子を引き席へと着く。なんだか不気味な威圧感を感じさせるその男に、紫月は苦虫を潰したように眉を吊り上げた。
◇ ◇ ◇
「けっ、何だってんだよあの野郎ー。なーんかイケすかねえ感じ!」
「だな? パッと見はクソ真面目なくせして妙な威圧感持ってるっつーかさ、おまけにあの面構え! 嫌味なくれえの男前っての? 共学だったら確実にモテモテのイケメンタイプってのが気に入らねー!」
昼休みの屋上で購買の菓子パン片手に、剛と京らがそんな話題に舌打ちまじりだ。隣の席にさせられた紫月に「お前はどう思う?」などと訊きながら、
「ま、けど面構えの良さで言えば紫月といい勝負じゃね? 担任の野郎、ヤツの親父は中国人だとか言ってなかったっけか?」
「つか、中国語もしゃべれるってだけだろ? 香港から越して来たっつーけど、家は何やってんだ?」
「そーいや桃稜の氷川ン家も香港で貿易商かなんかやってんだけ? 何だよ何だよ、皆して金持ちの放蕩息子ってかー? けど同じ香港なら案外知り合いだったりして」
何だかんだと言いながらも興味はあるのか、さっきからそんな話ばかりが延々繰り返されている。紫月は面倒臭そうにノビをしながら胸ポケットの煙草を取り出し銜えると、そのまま地べたへと寝転んで空を見上げた。
「おいおい……ンなとこで吸うなよ……センコーに見つかったら大目玉食らうぜ?」
剛が呆れたように水を差し、だが当の紫月はお構いなしといった調子で京に火をねだる。
「はん! センコーが何だ! 担任の野郎、調子コキやがってよー。なーにが『我が校始まって以来の優秀な成績でー』だよ! おまけに『面倒見てもらいなさいー』ときたもんだ! ……ったく、どいつもこいつも気に入らねえ! つか、ムカつく!」
担任の口ぶりをマネしながら大きく一服を吸い込んで、だらしなく身体を投げ出し天を仰ぐ。
春の日差しが眩しくて、そんなことにも腹が立たされる。『よろしく』と言われた時の鐘崎の顔が脳裏に浮かべば、ますますもって癪な気分にさせられた。
特筆するほど頭にくる理由もないが、何となく気に掛かって仕方がない。鐘崎という男のどこがどう気に入らないのかと訊かれても上手く説明がつかないくせに、何となく腹立たしいというか、とにかく良くも悪くも気に掛かるということ自体が無性にうっとうしい。
つかみようのないワケの分からない気持ちの乱れに、紫月は先が思いやられるといったように大きな溜息をついた。
「あーあ、新学期早々面倒臭えことばっか!」
滅法憂鬱だというようにふてくされて煙草をひねり消した。そんな気分に相反して、うら暖かい春風だけが心地よい春の午後だった。
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