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第14話 秘密
のっけからの一騒動で始まった新学期ではあったが、一夜明けてみれば、四天学園の紫月らも、そして桃稜の氷川白夜や白帝の粟津帝斗らにも、それぞれにとって通常の学園生活が幕を開けていた。
伝統勝負を難なくかわして一息というところの紫月には新たな受難、何となく目障りな転入生の登場で内心穏やかではない。
いつまでも新学期気分というわけにはいかず、授業が始まるだけでも面倒臭いというのに、隣の席にその男がいるというだけで、ワケもなく勘に障る気がしてならない。ソワソワと落ち着かず、隙を見てはチラチラと隣の様子を気に掛ける自分自身にも、胸くその悪い思いがしてならなかった。
ふと見れば、真っ直ぐに黒板を見つめる彼の横顔がひどく印象的で、苦虫を潰したような気分にさせられる。
高くて形のいい鼻梁に、彫りの深くて涼しげな目元、まるで濡れた羽のように艶のある黒髪、そのすべてが何とも気障ったらしく思えてならない。どこから見ても隙のなく、完璧でケチの付けようがない程に整い過ぎた出で立ち容姿はさることながら、身にまとった雰囲気がどことなくオリエンタルな魅力をも持ち合わせているようで、とにかく腹立たしいわけなのだ。
「……はっ、髪はカラスの濡羽色ってか? 気障野郎が……」
チッ、と舌打ちまじりについそんな台詞が口をついて出てしまった。
「――?」
その瞬間に、ふとこちらを振り返った彼と視線が合ってしまって、思わずドキリとさせられた。
(――ヤベ……ッ、聞こえちまったってか?)
慌てて横を向いたものの、よくよく考えてみると、それ程に彼のことで頭がいっぱいになっていることを自覚させられたようで、バツが悪い。
自分でも気がつかない内に彼の印象について口走ってしまうだなんて、とんでもなく不愉快だ。そんな様子を隣の彼の方は不思議そうに見つめている。
まったくやりにくいったらこの上ない。彼のことが気に掛かるということ自体に苛立つ思いがして、紫月は半ば戸惑ってもいた。
例えばそれが桃稜の氷川らに対して抱く感情のように、男としての価値や強さや縄張りを競うといった意味での対抗意識ならばまだしも、単にそれだけではない感情がくすぶっていることに気づいているから、尚始末が悪かった。
彼に気を取られる本当の原因――会って間もないこの男が気にかかって仕方ないのは何故なのか。
認めてしまえば単純なことだ。
気を許せば自然と頬が赤らむようなそれは、恋の感情に他ならない。
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