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第17話
けれども入学してみれば、やはり周囲の男友達らは他校に付き合ってる女がいるだの、毎朝駅ですれ違う近隣校の制服を着た女生徒に一目惚れをしただの、要は彼女が欲しいと、話題は大概そんな方向に花が咲く。この年頃の男ならば当たり前だろう興味に、正直付いていけない自分の感情に焦りを感じていたその当時――紫月にとっては同じような仲間がいるこの場所がひどく救いに思えたことは確かだった。
自らをここに連れてきてくれた門下生の男はもとより、彼らの輪の中にいることでこの上ない安堵感を得られたし、それが相まって少々背伸びをしたカンケイに興味を煽られたことも否めない。
以来、ヤリ友と称して『ソレ』だけの関係に身を任せたことも多少はあったが、同性同士でこんな間柄になるという以前に、まだ高校に入って間もない年頃である自分の若さゆえに、どうにも無理をしているように思えることも少なからずで、ひどく背徳的な罪悪感に苛まれた時期もあった。
だが、それ以上に自分がゲイであるのでは――という悩みが思春期の彼の背には重かったということか。淫らなその行為がある種救いと思えるほどに、この頃の紫月にとっては慰安をもたらしてくれるものだった。
「な、これからちょっと出ねえか? 二人っきりンなれるトコ。この前行ったラブホ、あそこなんかどうだ? それともお前が抵抗あるってんなら俺ん家でもイイけどー」
実際、ここいら近辺はホテル街ともいえる程に様々な施設が軒を連ねている繁華街だ。その気になれば不自由はしない好立地ではあるが、男の方は少々紫月の機嫌を窺うような調子でそんなふうに耳打ちをする。
「お前、相変わらずお高い雰囲気モロ出しってーかさ……」
「はあ……?」
「や、お高いってよりはお堅いって言った方が近いってーか……」
要はホイホイ気軽にヤらせてくれない雰囲気満々なんだもんなぁ、と言葉にこそ出さずに呑み込んだが、そういった類のことを言いたげなのをはっきりと視線が物語っている。
この男とは過去に二度ほど寝たことがあったが、確かにいつも大乗り気の彼に反して、自分の方は冷めた感覚で付き合っていたことが思い起こされる。
まあ彼の方にしてみれば、確かに嫌みや愚痴のひとつもこぼしたくなるのが当然だろうか。紫月はクッと苦笑いを漏らすと、
「悪りィ、今日はそんな気分じゃねえから」
と言って、少々よれた煙草を取り出し、無造作半開きの唇に銜え込んだ。
「はーん、相変わらずつれねえのなー! たまーに顔出したと思や『そんな気分じゃねえ』って、お前そりゃ酷な話だぜ。ならいったい何しに来たのーってな?」
「何しにって……俺は別に……」
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