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第19話 強がり

 次の日、紫月は大幅に遅刻をして登校した。  あと一科目で昼休みという時分にふらりと出向けば、「最上級生という大事な時期に何をやっているんだ」と担任から小言を食らう。  だが、半ば無気力で格別に望んだわけでもない昨夜の情事のせいでか、ダルさは抜けず言い訳も謝罪のひと言さえかったるい。そんな様子に担任は呆れ返って大袈裟な溜息まじりで、お手上げとばかりのゼスチャーを繰り返した。  親友の剛や京らも「おいおい」といった調子でニヤケながらも、しょーもねえなとからかい半分の視線を飛ばす。  チラリと上目使いに窺った自らの席の隣には、お約束とばかりに例の転入生の男が行儀のよく物静かに座っているのが目について、紫月はますます気だるそうに大きな溜息をついてみせた。  何故だろう、彼を目にした瞬間から説明のつかない奇妙な感情に支配される――  まったくもって気が重いといった調子で、わざと彼を避けるように視線も合わさずにドカリと自らの席へと腰を下ろした。その時だ。 「あの、済まないが次の授業の教科書を見せてくれないか?」  予想だにしない問い掛けに、ギョッとしたように真横を振り返った。 「あ……悪い。実は俺、まだ教科書が揃っていなくて……迷惑を掛けて済まないが一緒に見せてくれないだろうか」  生真面目な顔つきでそんなことを言われて、ますます驚いたように硬直してしまった。  少し申し訳なさそうにしながらもじっと見つめてくる真っ直ぐな視線に、急激に心拍数の上がるのをはっきりと感じる。  『どうぞ』とも『いいぜ』とも返せないままにしばし視線が絡み合う。  珍しい濃灰色の瞳はそれだけでドキッとさせられる魅力を充分に含んでいて、思わず見とれさせられてしまうくらいにとても綺麗だ。  ふと、昨夜の怠惰な情事に身を任せた投げやりな自分が思い浮かんで、後悔の念が脳裏をかすめた。 「いいよ、どーせ俺にゃ必要ねえようなモンだし……貸してやるよ」  バクバクと速まる心拍数を隠したいというのも勿論あったが、だらしのない自分に対する後悔の念を拭いたいとでもいうように、紫月はわざとつっけんどんに隣の男へと教科書を差し出してみせた。冷たく強がったそんな態度をとることでしか、今の自分の嫌なところを取り繕うことができなかったのだ。  だがそんな思惑に反して、転入生の男は『めっそうもない』といった調子で、いきなり机をくっ付けてよこした。

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