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第274話

「クソ……こいつぁ、ヤベえな。どっかで手当てしねえと……」  だが、そんな三人を取り囲むようにして、どこからともなくゾロゾロと妖しげな人々が集まってきてしまった。誰しも特には手出しするといったわけではなかったが、ニヤニヤと口元を緩めながら酒に酔ったような感じの男もいる。酒どころか何かの薬でもやっているのだろうかと思えるような、視線の定まらないアブナイ感じの連中も寄って来た。 「手当てするにしても、一先ずこっから離れるしかねえ! 一之宮、俺が奴らを突破する。お前は女を頼む」 「分かった!」  紫月は美友の前で屈むと、 「ほら、俺におぶさるんだ。早く!」  そう言って背中を差し出した。 「え……!?」  美友は驚きつつきも、素直に紫月に助けてもらうことも躊躇われるのだろうか。それ以前に、どうしていいか分からないといったような顔付きで呆然状態だ。 「……チッ! 仕方ねえ。ちょっと我慢してろよ!」  紫月はそう言うと、美友を抱きかかえて自らの肩に担ぎ上げた。 「ちょっと……! な……何するの……よ!?」 「いいから! しっかり掴まってろ!」  そう言うと、人だかりを掻き分ける氷川の後について全速力で走り出した。 [おい、逃げたぞー!] [何だ、あいつら] [追え! 追い掛けろー!] [ここはなぁ、ただじゃ通れねえって知ってっかー?]  呂律の回らないような声が飛び交い、ゾロゾロと追い掛けて来る。さすがに氷川や紫月の速さに付いては来られないものの、追い剥ぎに遭いそうな状況に焦燥感を煽られる。二人は持てる力を振り絞って、猛スピードでその場を駆け抜けたのだった。  そのまま無我夢中で走り、ようやくと彼らを引き離すと、少し大きな通りが見えてきた。車通りもあり、電灯も見える。だが、その通りの向こうは、飲み屋街のような屋台がズラリと並ぶような場所だった。 「一難去って、また一難ってか? 今度は酔っ払いかよ……」  それこそ絡まれでもしたら面倒だ。その通りへ出る前に一先ず美友の怪我の手当てがてら休憩を入れた方が良さそうだ。氷川と紫月は路地の一角に身を潜めると、担いでいた美友を下ろして一休みすることにした。 「傷、見せてみろ。痛むか?」  紫月が美友を座らせて傷口を確かめる。トラックを降りる時に氷川から渡されたペットボトルを開けて、患部を洗い流した。 [痛ぅ……ッ] 「少し我慢してろよ。氷川、悪い……ちょっとここ照らしててくれ」 「おお」  氷川が懐中電灯で患部を照らす。これもトラックから調達してきたものだ。早速いろいろと役に立っている。  紫月は先程美友に頬被りさせた自らのシャツをカッターナイフで切り出すと、それで傷口を固く縛った。 「よし! これで少しはマシだろ」  額の汗を拭いながらホッと溜め息をつく。そんな彼の傍らで、美友がポツリと呟いた。 「何で……よ」 「え――?」 「何で……? 何でアタシを助けたり……するの……」  彼女の瞳は驚愕といったように潤み、揺れていた。

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