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第278話 縁
もしかしたら撃たれたのかも知れない。だが、痛みは感じない。
一体どうなったっていうんんだ――
氷川は――?
一之宮には当たったかも知れない――!?
美友は無事なのか――?
氷川も紫月も、互いにそんなことを思いながら、夢か現実かさえ分からない恐怖が二人を包んだ。
だが、あれだけの激しい銃声だったのに係わらず、辺りはすっかりと静まり返ってしまったようだ。恐る恐る目を開ければ、一人の男の広い背中が飛び込んできた。まるで自分たちを庇うかのように突如として現れたその男の向こうには、慌てふためいたように退散していく追手の姿が遠ざかっていくのが分かった。彼の手にはガッシリとしたゴツい銃が握られており、その銃口からは薄い煙のようなものが立ち込めているように感じられる。今、まさに撃った直後というのが窺えた。
つまりは、この男が追手の銃を打ち落としたということなのだろう。地面には追手が落としていったと思われる短銃が二つ三つと転がっていた。
「鐘崎か――!?」
氷川が咄嗟にそう叫んだ。
鐘崎が追い付いてくれて、助けに来てくれたのだと思ったのだ。ところが、
「違う……。遼……じゃねえ……」
男の背中を見上げながら、紫月がポツリとそう呟いた。
男がゆっくりと振り返る――
紫月はもとより、氷川も逸るような表情で助けてくれたその男を見つめた。
「お前さんが――紫月だな?」
男が穏やかに微笑みながらそう言った。
◇ ◇ ◇
その少し前――鐘崎と冰、そして帝斗に綾乃木らは別の飛行機で香港入りした源次郎とも無事に落ち合って、紫月らの後を追い掛けていた。
氷川からの情報を元に、すぐさまそれらしき組織に当たりをつけて取引場所に使われるだろう箇所を絞り込む。源次郎の迅速な調べによって、鐘崎らは紫月と氷川が連れ込まれた倉庫へと辿り着いていた。
「間違いない。このトラックだ」
例のフードコートで帝斗がタブレットに納めた画像通りのトラックが乗り捨てられているのを発見して、先ずは場慣れしている鐘崎と源次郎で辺りに探りを入れる。冰や帝斗らには念の為、車に乗ったままで待機してもらう。周辺には数台の車が停まっているものの、人の気配はなかった。
「クソッ、既に取引が済んじまったってことか!?」
だが、取引相手のものと思われる車は停まったままだ。鐘崎は逸る気持ちを抑えながらも、トラックの荷台を確認することにした。――と、扉に括り付けられたハンカチに気付いて、手に取った。それには先刻氷川から送信されたメールと同様のことが黒の油性ペンで記されていた。もしもメールが送信できなかった時の為にと、氷川が念を入れたのだろう。鐘崎は、急ぎハンカチを冰の元へと持って行くと、それを彼に見せた。
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