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第279話

「これは氷川の書いたもので間違いないか?」  冰に筆跡を確認してもらう。 「間違いない。白夜の字だ! それに――このハンカチは紛れもない白夜のものだよ!」  冰もまた、逸った表情で頷いてみせた。  真っ白なハンカチ――その隅に見覚えのある刺繍が施してあった。  ― Ice 白 night ー  いつぞや氷川からもらった、冰にとって大切な大切な白いハンカチ――それは普段氷川が使っているものに相違ない。 「鐘崎君、間違いない。白夜たちはここに居たんだ!」  冰の決意ある視線に、鐘崎も頷いた。  ということは、やはり一足遅かったということか――  鐘崎がすぐに足取りを追おうと、氷川のGPSを確認せんとした時だった。 「遼二さん! 来てください。こっちに男が二人、ノビております」  倉庫内の隅にある小部屋で源次郎がそう叫んだ。 「こいつらは……!」 「ええ。粟津様が撮ってくださった画像に写っていた男たちです」  では、彼らをここに閉じ込めたのは紫月と氷川ということか。 「もしかしたら取引に入る前にここから脱出したのかも知れねえな」  紫月も氷川も腕は達つ男たちだ。上手く彼らを巻いたということだろうか。 「ですが、他の者たちが見当たらないのが気になります」 「ああ――。車が乗り捨ててあるってことは、後から来た組織の連中が紫月らを追って行ったのかも知れねえ」  そう話す鐘崎と源次郎の傍らで、源次郎の部下たちが叫んだ。 「紫月さんたちの位置が分かりました! この先、少し行った所です」  彼らの差し出したタブレットで鐘崎はすぐに位置を確認すると、苦々しく眉根を寄せた。 「……ッ、九龍城の再来と言われる地区か……! 源さん、奴らが危ねえ! すぐに追うぞ!」 「はっ――!」  部下たちに冰らを任せて、倉庫を飛び出そうとした、その時だった。鐘崎のスマートフォンに連絡が入った。 『俺だ。紫月たちは無事に保護した。売春組織の連中がそっちへ戻って行ったから、お前の方で押さえてくれ』  その報告に、鐘崎はホッと胸を撫で下ろした。 「源さん! 紫月らは無事だ」 「――では、間に合ったのでございますな」 「ああ。あっちはもう心配ないそうだ。間もなく組織の連中がここへ戻ってくるから、こちらで処理する」 「かしこまりました」  源次郎は部下たちに言って冰や帝斗らの乗った車を先に帰すように手配すると、闇組織の捕獲に向けてすぐさま態勢を整えたのだった。  一方、紫月と氷川は、自分たちを救い出してくれた男を見上げながら、未だ腰が抜けたようにして路地にへたり込んでいた。本物の銃撃戦に遭った直後だ、それも致し方なかろうか。

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