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第283話

 その後、父親の邸に戻った鐘崎は、紫月を無事に取り戻せたことに安堵し、氷川にも心からの礼を述べた。冰や帝斗、綾乃木らの尽力に対しても深く感謝の意を述べ、皆は一緒に少し遅めの夕卓を囲んだのだった。  美友には僚一が手厚く怪我の手当てをし、彼女が意識を取り戻す前に自宅へと送り届けた。今はまだ息子の遼二と美友を再会させない方がそれぞれの為であろうとの配慮からだった。今回、彼女がしたことは、理由がどうあれ正しいことではない。例え紫月当人が気にしていないと言ったところで、周囲――とりわけ息子の遼二――は素直に彼女のしたことを許せるかといえば、正直なところ難しいだろうと思ったからだ。互いの為にもここは少し時間を置くのが正解だろう、僚一は皆が戻ってくる前に美友を帰すことにしたのだった。  そうして夕食も済んだ後、皆は僚一の自宅でくつろぐこととなった。  僚一のアジトというのは、この邸の他にもあるわけだが、ここが一番広い邸である。高台に位置していて、ここからだと香港の見事な夜景が堪能できる抜群の立地でもある。余談だが、立体映像で香港の街並みが映し出される川崎の邸の地下室は、ここと同じ造りになっているのだ。高級ホテル並の部屋がいくつもあり、客人を接待するのにも困らないという、さすがの構えだった。  部屋の割り当ては氷川と冰、帝斗と綾乃木、そして鐘崎に紫月、いわば恋人同士に一部屋ずつでくつろいでもらうことにする。源次郎と側近たちにはそれぞれ個室が用意され、皆の苦労を労うこととした。残るは紫月の父親である一之宮飛燕の部屋だ。 「飛燕――お前は俺と一緒でいいだろう?」  僚一は、飛燕を自らの部屋へと誘うと、二人は久しぶりの再会を堪能することになったのだった。 ◇    ◇    ◇ 「親父たち……大丈夫かな」  鐘崎と共に部屋へと戻った紫月が、心配そうに親たちを気に掛けていた。というのも、鐘崎の父親の僚一と、自らの父親の飛燕は互いを想い合う特別な仲だと聞かされているからだ。  鐘崎からその縁を打ち明けられた時には大層驚いたわけだが、今回このようにして思い掛けず再会することとなった彼らを気に掛けるなという方が無理である。 「俺らが気を揉んでも仕方ねえさ。二人共、大の大人なんだ。うまくやるだろうよ」  鐘崎の方はあっけらかんとしているが、紫月にはやはり心配なのだろう。 「ま、そうだけどよ……。あの二人、会うのは超久々なんだろ? 親父のヤツ、ちゃんとお前の親父さんと話せるのかな……。な、やっぱさ、俺らも一緒の方が良くねえか?」  そわそわと、まるで所在なさげにする紫月に、鐘崎は後方から彼を抱き包むようにして腕の中へと引き寄せた。 「それじゃ俺が困る――。親父たちと一緒だったらお前を抱けない」  ド直球というくらいの大胆な台詞に驚く間もなく唇を奪われて、紫月はしどろもどろに視線を泳がせた。

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