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第288話

 まあ抱く側と抱かれる側では若干の感覚の違いがあるのだろうが、気に掛かっていることをそのままに、会えなかった間のことを訊きたがる僚一の気持ちも分からないではない。敢えて触れないのが大人の配慮ともいえるが、飛燕には僚一のそんな子供のような勘ぐりと嫉妬心が心地好く思えてもいたのだった。 「相変わらず心配性だな、お前は」 「すまねえ。ガキみてえなこと言って……女々しかったか……」 「はは、分かってんじゃねえか。まあ、そういうところがお前らしいっちゃお前らしいよ」  飛燕が笑う。その朗らかな笑みが愛しくて堪らないとばかりに、僚一は益々腕の中の彼を強く抱き締めた。 「――お前さんは訊かねえのか?」 「訊くって何を……」 「いや、だからその……」 「訊いて欲しいのか?」 「いや、その必要はねえ。ちゃんと暴露するさ」 「暴露って、お前……」 「俺も同じだ。俺も誰とも寝てねえし、お前一筋だった」 「僚一……」 「ただ……そうだな。敢えて謝るなら、想像の中でお前をめちゃくちゃに穢したことかな」  苦笑する僚一に、飛燕は驚いたように瞳を見開いた。 「何だ、それ」 「普通ならしねえようなことだ。愛するよりも穢す、犯す――そんなふうな想像ばかりした。そうされて、お前もめちゃくちゃに反応じてくれた。想像の中の俺たちは……二人共、獣のようだった」 「僚一……お前」 「声も聞けねえ、見ることも触れることもできねえ。その分、想像でお前を貪った。お前のことを考えない日はなかった。頭の中でどんなに穢そうと、現実にお前以外を抱きたいなんて思ったこともなかった」 「僚一……」 「会いたかった――飛燕」 「ああ。ああ……俺も……だ」  あふれて止まない全ての愛しさをぶつけ合うように、二人は抱き合った。僚一は飛燕を背後から抱き包み、飛燕は回されたその手を取って、両の掌で握り締め――永かった月日などまるで無かったかのように、二度とこの温もりを放さないとばかりに強く固く抱き合った。 「飛燕――」 「ん――?」 「もうお前を放さねえ」 「僚一……?」 「ずっと考えてきたことだ。今回、思い掛けずこんな機会になったが――そうでなくとも近くお前を迎えに行くつもりだった」 「僚一……!?」 「ボウズ共も高校生になった。本当はヤツらの卒業を機にと思っていたんだが――俺は裏稼業から足を洗おうと思う」 「――!?」  それは、飛燕にとって想像もしていなかった驚くべき告白であった。

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