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第290話 ウォーアイニー
次の日、陽が高くなる頃に遅めのブランチで顔を合わせた一同は、夏休みの旅行がてらということで香港の街を観光して歩くことになった。
鐘崎と紫月、氷川に冰、それに綾乃木に帝斗の六人は、氷川の父親が経営しているという貿易会社の香港支社を訪ね、その後は観光地巡りをして過ごすことにする。現地の案内役として、僚一が車の用意から途中のティータイムや食事の場所なども手配し、飛燕は無論のこと、源次郎らも同行して回った。
「バリやセイシェルもいいが、香港観光もオツだわな」
「そうだね。どうせ皆で旅行するつもりだったものね」
氷川も帝斗も楽しげで、
「俺は白夜のご両親にもお会いできたのがすごく嬉しかったよ」
冰も大層喜んで、皆は充実したバカンス気分を味わったのだった。
范美友が父親と共に謝罪にやってきたのは、その次の日のことだった。
「鐘崎様、この度は娘がとんだご無礼を致しまして……誠に申し訳ございません」
父親が平身低頭で謝り、美友も続いて頭を下げた。
「紫月、遼二、そして氷川――、本当にごめんなさい」
言葉数は少ないが、美友はその場で膝をついて目一杯頭を下げながら謝罪した。その姿に、紫月が慌てて彼女の側へと駆け寄った。
「美友……よせって! 傷が開いちまう!」
紫月には、彼女が土下座までして謝る姿に驚いたというのもあったが、それ以前に膝を折ったその体勢を見て慌てて駆け寄ったのだ。彼女は先日転んだ際に膝に怪我を負っている。それが何より気になったわけだ。
「あんたの気持ちは分かった! もうほんとに分かったから、頭を上げてくれ!」
ハラハラと怪我の様子を心底気に掛ける。彼女の腕を取って立たせようとする紫月に、僚一を始め、源次郎、そして氷川ら周囲の者たちは、感動の眼差しでその様子を見守っていた。
だが、いつまでたっても立ち上がろうとしない美友に、紫月は困ったようにして鐘崎に助け船を求めた。
「な、遼――」
(お前からも言ってやってくれ。もう怒ってねえって。頼むよ、遼――!)
そんな紫月の気持ちが伝わったのか、鐘崎はゆっくりと美友の前に歩み出ると、そっと手を差し伸べた。
「遼二……」
美友は驚いたようにして瞳を見開き、ようやくと顔を上げた。その頬には大粒の涙の雫がボロリと零れ――。
「ごめんなさい……! 本当に……とんでもないことしてしまって……反省してるわ。本当にごめんなさい」
紫月はそんな彼女の肩に手を回して抱き起こし、鐘崎も美友の手を取って、二人で彼女を立ち上がらせた。その様子を見ていた彼女の父親が、
「鐘崎様、一之宮様、氷川様、皆様――本当に申し訳ございません。皆様のご厚情には何と申し上げても足りません。本当に……感謝致します」
深々と頭を下げながら、今一度、心からの謝罪を述べたのだった。
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