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第295話
そして高校最後の夏休みも明けた九月初旬――
四天学園の鐘崎と紫月ら、桃陵学園の氷川、白帝学園の帝斗らがそれぞれの級友や後輩たちを伴って埠頭の倉庫街に顔を揃えた。紫月らの一学年下である徳永や、氷川の後継といわれる春日野らの姿もある。また、部外者ではあるが、隣の市の楼蘭学園からは冰も顔を見せていた。
「よく集まってくれた。今日ここで皆に伝えたいことがある」
一同を代表して氷川の掛け声が響き渡る。それを受けて、今度は紫月が、
「永きに渡った桃陵と四天の因縁関係は、今日この場限りをもって終焉とする。これからは互いを尊重しつつ、手を取り合って有意義な学園生活を満喫する――ってことでどうだ?」
氷川からバトンタッチするようにそう言うと、倉庫内に割れんばかりの歓声が響き渡った。
「マジ!? そんじゃ、これからは四天の奴らと街で鉢合わせても気張らなくていいってことだな?」
「うっひゃー! これで肩の荷が下りるぜ!」
桃陵の連中がそう言えば、
「ああ、俺らも同じ! これからはビクビクしねえで街歩ける! ……ってかー?」
四天の学生らもおおらかに伸びをしながらそう言っては、豪快に笑い合った。
「頭同士が和解してくれるってのは有り難えなぁ!」
「けどまあ……永え伝統がなくなっちまうってのは、ちっと寂しい気もすんな」
「ま、いいじゃねえの! 俺ら、今日から仲間だな?」
四天も桃陵も入り混じって肩を抱き合う。
かつて、クラスメートが拉致された際に、たった一人ですぐさま助けに向かった紫月。
同じように、カツアゲや使いっ走りにされて困っていた級友の為に身を投げ出して敵対グループを阻止した氷川。
そんな彼らだからこそ、”頭”として崇められてきたのだろう。その頭同士が手を取り合っていこうと宣言したのだ。誰しもが快くそれを受け入れ、新しい仲間が増えることに心躍る気持ちで、その表情は皆晴れやかだった。
無論、両校の後輩である春日野や徳永も違わずで――。
「俺らの代になっても、この新しい伝統を守っていこうな」
「ああ――そうだな」
そっと肩を寄せ合った二人を鐘崎、紫月、そして氷川と冰の先輩カップルたちが微笑ましそうに見守っていた。
「はぁん? あの二人、やっぱり思った通りだったな」
春日野らを見つめながら、氷川がニヤッと口角を上げて意味ありげに言うと、
「思った通りって……?」
冰が不思議そうに首を傾げる。
「前に俺が怪我した時、春日野ン家の医院で世話になったろ? そん時にちょうどあの徳永って奴に鉢合わせてな。奴ら、家が隣同士で幼馴染みだとかって言ってたんだが、えらく心配そうに春日野のことを気に掛けてたんだ。俺と一緒に諍いに巻き込まれたと思ったらしくてよ」
その時の徳永の様子が、単に幼馴染みを気に掛けただけではなく、もっと特別な感情があるのではないかと感じたのだと氷川は言った。すると、その横から鐘崎も似たようなことを口にした。
「そういやあの徳永って下級生、前に紫月のところに来てたな。ヤツの想い人ってのはやっぱり男 だったってわけか」
そういえばそんなことがあったっけ。鐘崎と紫月の関係に、しつこいくらい興味を示して食って掛かってきたのを覚えている。
「ああ、そうだった! 野郎同士で付き合うことがどうだとか、俺にも自重しろとかって、えれえ慎重になってたっけな」
紫月も思い出したとばかりにパチンと指を鳴らして頷いた。
「……っつーことはさ、徳永の好きな相手って……桃陵の春日野って奴だったってわけか!」
「多分な」
鐘崎が微笑ましげに瞳を細める。
「へぇ、そうなんだ。なら、あの二人も上手くいくといいな」
冰もまるで我がことのようにして彼らの幸せを願うのだった。
番格たちの伝統は形を変え、時代を超えて絆を深め合い、そしてまた新たな世代へと引き継がれていく。まさに新時代の幕開けであった。
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