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第293話

 機内では鐘崎と紫月が水入らずで手を繋ぎ合っていた。  氷川と冰は粟津家のプライベートジェットで帝斗らと共に帰ったので、今は二人きりだ。無論、源次郎ら側近の者たちは一緒ながらも、広い機内での居室は別々である。 「とんだ怒涛の日々だったが、これでひと段落だな。帰ったらしばらく二人でゆっくり過ごそう」  そう言って微笑んだ鐘崎に、紫月は先程美友から教わったばかりの言葉を思い出していた。 「な、……遼」 「ん? 何だ?」 「あのさ……」  半信半疑で深呼吸をし、思い切って投げ掛けてみる。 「ウォー……アイニー」  それを聞いた鐘崎が、驚いたようにして瞳を見開いた。 「紫月……お前……」  その反応に紫月はますます半信半疑で眉根を寄せる。やはり美友にちゃんとその言葉の意味を教わってから言うべきだったか。戸惑ったのも束の間、突如ガバッと抱き締められて、紫月は面食いそうになった。 「お前……ンなこと、言ってくれて……こんなトコで俺を発情させる気か?」  ギュウギュウと苦しいくらいの抱擁に、紫月は慌てた。 「えっと……遼……それってどういう……」  言葉の意味を訊く間もなく、鐘崎から口付けと共に発せられた言葉――。 「ああ、ああ……俺もだ。ウォーアイニー! もう一生離さねえから覚悟しろよ!」 「えっ……? ……って、遼……!」 「この機内にはちゃんとベッドルームもあるんだ。ンなこと聞いちまったら、帰るまで待てねえな」  そう言って笑った鐘崎に手を取られ、引き摺られるようにしてベッドへと連れ込まれた。 「な、遼……! ウォーアイニーっていったい……」  どういう意味なんだ?  だが、その答えを紫月が知るのは、川崎の自宅に着いてからになる。  機内で散々に鐘崎の抱擁を受けた紫月は、言葉の意味を考える余力もないくらいに愛されまくったのだった。 ◇    ◇    ◇

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