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第22話
ふと、漠然と浮かんだ一つの空想に、紫月は思わず癪だというように唇を噛みしめた。
そうだ冗談じゃない。朗らかな誘いに乗ってホイホイ友達になって、この男の知らない面をどんどん垣間見てはほだされて――
挙句、奇妙な感情を持て余しては行き処のない想いにのた打ちまわる、そんな行く末が瞬時に脳裏をよぎったのだ。
こんなことが思い浮かぶ自体が既にこの男に傾いてしまっているようで、それこそ冗談では済まされない。
何とかしてこれ以上近付きにならない方法を見つけなければいけない。
窓の外はうららかな青空が心地よい。
また、ひとたび風が吹いては春の陽炎がほのかに揺れる――
穏やかな外の風景へと再び視線を逃がしながら、紫月は心の中を焦燥感でいっぱいにしていた。
やっとのことでその時間をやり過ごし、何だかドッと疲労させられたようでもあって、紫月は参ったとばかりに机に突っ伏していた。
「よっしゃー、メシだ飯! おーい、遅刻大魔王~! メシ行こうぜ、メシー!」
待ちに待った昼休みに、腐れ縁の剛と京が浮かれ声でこちらに向かいながら、やはり興味があるのか隣の鐘崎という男に興味津々とばかりの視線を飛ばす。
「おー、そっか! アンタ、転入したばっかで教科書とか揃ってねえんだっけ? な、な、メシはどーすんの? 俺ら、雨の日以外は屋上で食うのよ。よかったら一緒にどう?」
何故かワクワクとした調子でそんなふうに声までかけていやがるじゃねえか――!
紫月は嫌な予感にビキッと眉をしかめた。
そんなことは露知らず、仲間内の紫月が席と席をくっ付けるくらい親しくなっているのなら好都合とでもいうようにして、京が転入生の鐘崎を覗き込んだ。
「へえ、アンタ弁当持ちかよ!? つか、それすっげーデカくね? 豪華ー! あんた、香港から来たとかって言ってたよな? だったらやっぱ中華ってか?」
おいおい、何なんだその態度は――?
昨日まではイケすかないだの、癇に障るだのと対抗意識丸出しで文句タラタラだったくせにして、何だかんだと言いながらやはりこの転入生の男に興味があるというのが一目瞭然だ。
ゲンキンなその態度に紫月は未だ机に突っ伏しながら、チラリと上目使いで京の方を睨み付けた。
(バカヤロー、俺りゃーまだこの野郎と親しくなったってわけじゃねえぜ)
と、そんなふうに言いたげなのがモロバレだ。長い付き合いだ、紫月がそう言いたげにしているのが二人にはハッキリと分かって、「ダハハハ……」とお愛想笑いを漏らした。
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