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第24話
そうだ、この剛というのは本当にデキた奴というか、同じ年とは思えない程に落ち着いていて、オトナの気配りができる大した男だ。
家が近所で幼馴染、幼少の頃からツルんできたせいもあってか、紫月にとってはすっかり気を許せる心地よい存在だった。
自らがゲイであるということも、この剛にだけはやんわりとだが打ち明けてもいた程だ。
それを聞いた時も、彼は少々驚きながらも敢えては何も言わずに理解を示してくれたくらいだから、やはり気のおけない相手に違いなかった。
そんな剛に甘えるというわけじゃないが、紫月はクッと苦笑いを漏らすと、少々挑発するかのようなハッキリとした口調で意外なことを口走ってのけた。
「昨夜ちょっとね、ヤリ友とシケ込んでたから」
その言葉に剛はもとより「えっ!?」というような表情で鐘崎がこちらを振り返ったのを目にすると、それが満足だとでもいうようにして紫月は更に大胆な台詞を吐いてみせた。
「その野郎がさー、容赦なくヤりやがるもんでよー。お陰でケツ痛えのなんのって! 腰立たなくなっちまってさ、そんで遅刻!」
「――――!?」
堂々とぶちまけられたそのひと言に、京までもがギョッとした顔でこちらを振り返った。
チラリと上目使いに確認すれば、鐘崎という男が滅法驚いたような表情でこちらを凝視している。
紫月はますます満足そうに瞳をゆるめると、胸ポケットから煙草を取り出してわざと大袈裟に舌舐めずりをするようにそれを銜え、まるで誘惑するとでもいわんばかりに舌先の上でフィルターを転がしてから火を点けた。
「――あんたも吸う?」
ニヤリと瞳を細めては、硬直しているらしい鐘崎をじっと見つめながら挑発的に微笑んでみせた。
「は、はははは! 相変わらずだなー紫月! 冗談キツ過ぎんだよ、てめえは! 笑かせんじゃねーっての!」
半ばバカウケしながらも新入りの鐘崎を気遣ってか、「気にしないで、勘弁なー!」とでもいうように京が手を叩いて場をくつろげたその横で、剛の方はやれやれといった調子で深く溜息をついてみせた。
◇ ◇ ◇
「紫月よー、お前もうちょいや~らかくできねえ? 新入りのヤツもいるわけだからさー、何つーかもうちょっと……な?」
予鈴と共に教室へと向かう階段の途中で、剛のご尤もな忠告を半ば面倒臭げに聞き流していた。
確かに、少々やり過ぎた感に苦笑せざるを得ない。だが、ああするしか方法が思い浮かばなかった。
今後、鐘崎という男と行動を共にすることが多くなるにつれ、何も知らない彼が、きっと先刻の授業の時のように親しげに接してくるだろうことは容易に想像できる。その好意的な態度に自らの気持ちが翻弄されるだろうこともしかりだ。
だから遠ざけたかった。
彼との間に距離を置きたかった。
少々ドギツかろうが、警告の意味をも込めてあの男を自分から引き離すには、ああするしかなかったのだ。
彼に魅かれて嵌って、挙句そんな気持ちがバレて気まずい思いに泥沼化していく――そんなふうになるのなら、今の内に呆れられるか引かれるか、あるいはとっとと嫌われてしまった方が楽だからだ。
まあこんなことを思う自体がもう手遅れということだろうか、
「なあ剛ちゃんさー、確かに……イカれてんわ俺……!」
つか、終わってる――
少し低くドスのきいたような声でそう言った。
「おい……紫月?」
横柄な態度とは裏腹に、紫月の横顔が何故だかひどく苦しげに歪んでいる。彼と並んで歩きながら、剛は不思議そうに首を傾げたのだった。
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