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第25話 夫婦刀に秘められた謎

 紫月が屋上で毒舌をかましてから後も、特には変わったことのないままに二日が過ぎた。  鐘崎という男もすっかり紫月らの仲間内に溶け込み、それをきっかけにクラスの連中らともぼちぼちと馴染むようになっていった。  皆、ほぼ思うところは等しいというわけか、今まで遠目に鐘崎を窺っていた者たちも、一度きっかけができてしまえばこの男を好意的に取り巻く様が一目瞭然だ。傍目から見てもやはりこの鐘崎にはある種の風貌があるということなのだろう。特に京とは折り合いが合うのか、この短期間に互いを名前で呼び捨てるまでになっていた。まあどちらかといったら京の方が積極的な感があったが、とにかく彼の人懐こい性質のせいもあってか、鐘崎当人もそれにつられるようにして違和感のなく馴染んでいるその様子に、紫月だけは未だ気の重いながらも静観しているといったふうだった。  元々口数の少なく硬派なイメージの紫月のこと、仲間内で彼だけが鐘崎と大して親しげにしていなくても、特には気にとめる者もいなかったとういうのが幸いか。とにかく紫月はノリのいい剛と京の後ろに付いていくというような感じで、他力本願的な日々を過ごしていたのだった。  だがまあ、そうはいえども教室に入れば否が応でも席は隣同士、どんなに接触を避けようとしてもやはりひと言の会話もしないというわけにはいかない。加えて未だに教科書の揃っていない彼に、机をつっく付けて見せてやらなければならない状況にも変わりはなく、意に反して案外疲労させられる毎日だったというのも実のところだ。  こっちの気も知らねえでお気楽なもんだよなーと、横目にチラ見する彼の視線は相変わらずで、生真面目そうに黒板を見つめていることが多い。先日、あれだけの毒舌を放ったにも関わらずまったく気にしていないのか、こちらを警戒する素振りも皆無のようだ。  まあ、直接『男とセックスをしてきた』と言ったわけじゃなし、あの程度の言い方でははっきりとした意味が理解出来なかったのか。あるいは意味は通じていてもほんの冗談と受け取られたのかは知らないが、とにかく相当イキがって毒舌をぶちまけたつもりのはずが全くの効果なしといった様子に、癪な気持ちと安堵の気持ちが交叉する。  彼の変わらない態度に心のどこかでホッとしていたりするのに気がつけば、そちらの方が気重だというようにして、紫月は溜息の絶えない調子でいた。  そんな思惑をよそに今日もまた授業が始まる――  お決まりのように机をくっ付けて本を間に置いて、これまたお決まり、緊張の一時限の始まりだ。  あーあ、といったように彼に背を向けるような形で右の片肘をついてボゥーっと窓の外に視線をやったその時だ。 「なあ一之宮、今度あんたの家に遊びに行ってもいいか?」  その言葉に紫月はギョッとしたように鐘崎を振り返った。 「あんたの家、道場やってるんだろ?」 「――は?」 「や、京たちからそう聞いたもんだから……。もしよかったら見学っていうか、日本の武道とか見せてもらいてえなって思ってさ」  にこやかに、爽やかに微笑まれて紫月は面喰ったような顔をした。

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