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第26話
(あンの野郎共ー、余計なこと抜かしやがって……!)
眉間をヒクつかせながらも、だが内心はやはりうれしい感が否めないのか、紫月は『負けた』というように、
「別にいいぜ。来たきゃ来れば――?」
と、ぶっきらぼうにそう言ってのけた。
◇ ◇ ◇
善は急げといわんばかり、その日の放課後になると早速に鐘崎は道場へとやって来た。
どういうわけか剛や京も一緒で、いつも通りにギャアギャアと大乗り気で盛り上がりながら商店街の帰路を歩いているこの状況――
どうせ京らがお節介にも聞き出したか、あるいは鐘崎本人が漏らしたのかは知らないが、
『道場を案内してもらえることになった』
『そいつはよかったな~』
などと盛り上がったに違いない。
まあ鐘崎と二人っきりで下校することを思えば遥かにマシなわけで、半ば呆れつつも紫月は悪友たちを伴って帰路を歩いた。
紫月の家に着くと、まずはその外観からして珍しいというように鐘崎が感嘆のため息を漏らしていた。
街中にしては豪勢な程の広々とした敷地は、ぐるりとその周囲を竹製の柵で囲まれていて、純和風のその造りを非常に興味深そうに眺めては、しばし感慨深げに立ちすくむ。そんな鐘崎の横顔には、春の夕陽が反射していて眩しそうに手をかざす。ほんのちょっとしたそんな仕草にも胸がざわめいてしまうのに、紫月は苦笑いを抑えられなかった。
門をくぐって中に入ると、どうやら今日は小学生の稽古が開催されているようで、道場からは賑やかな声があふれてきていた。
「たーだいまーっ」
紫月がちらりと顔を出せば、それに気付いた子供たちがうれしそうに駆け寄ってきたのに、剛たちはクスッと頼もしげに微笑んだ。
「あいつ、ガキには人気あるんだよなー?」
「道場で育っただけあって強えからな、あいつ! ガキ共にとっちゃ憧れなんだろうよ?」
剛と京が口々にそう言うのを聞きながら、鐘崎もまた、ふいと瞳をゆるめた。
子供たちにもみくちゃにされた紫月の後方から和服をまとった一人の男性が顔を出し、おそらくはそれが紫月の父親なのだろう、凛とした背筋のその姿を見て鐘崎らはペコリと頭を下げた。
「あ~……っとその、今日はダチ連れて来たんで……」
紫月はポリポリと頭をかくような仕草をしながら父親へと彼らを紹介した。
剛と京は小さい頃からの馴染みだったが、見慣れない鐘崎の存在を目にすると、紫月の父親はハッとしたように彼を見やった。
初対面というのも無論だろうが、鐘崎の見てくれがどうにも清々しい印象に思えたのか、しばしポカンとしたように彼を見つめたまま立ち尽くす。そんな様子に紫月はチィと舌打ちをすると、
「は……んっ、どーせ俺らのダチにはそぐわねえ雰囲気だって言いてーんだろ? こいつはね、転入生なのー! 香港から越して来たばっかでさ、日本の文化に触れてえとか何とか抜かすからよ……」
不良を地でいく自分たちには似合わない優等生を連れて来たのに驚いているふうな父親に対して、紫月は嫌みまじりにそう説明した。
「鐘崎遼二といいます。一之宮君たちとは同じクラスで世話になってます」
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