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第27話
鐘崎が律儀に頭を下げている様子に、どーせ俺たちとはデキが違いますよと言いたげにして紫月は呆れ半分、剛と京も照れ笑いをしながら頭を掻いている。
「あ、そう……そうだったのか……これは失礼。どうぞゆっくりしていってください」
紫月の父親も鐘崎の紳士的な感じに、しばし茫然としたように彼を見つめていたが、彼が香港から越して来たばかりでわざわざ日本の武道に興味を示してここを訪れてくれたのをうれしく思ったようだ。
「そうだ、ではいいものをお目に掛けようか」
父親は一旦母屋へ向かうと、一振りの日本刀を携えて戻って来た。
「おわっ……! すっげー! これってカタナ!? 本物ッスか!?」
相変わらずの懐っこさで京がその側へと駆け寄って、ワクワクとした様子で瞳を輝かせれば、
「すっげー、真剣ってヤツっすね? 俺、初めて見たよこんなの」
剛も鐘崎の腕を取り、彼を引き連れるようにしながら珍しそうにマジマジと刀を眺める。
「居合の試し斬りを君たちに見せてあげようと思ってね」
紫月の父親は彼らを裏庭へと案内すると、携えていた刀を一度鞘から取り出して中を改め、すぐにまた鞘へと戻すと、静かに瞳を閉じた。
――静寂の中にビリリとした緊張感が張り詰める。
静から動への仕草と共に、見事に巻藁が切られて空を飛ぶ。少し離れた縁側で、皆は目を皿のようにしてその様子を見つめていた。
◇ ◇ ◇
「いやー、すごかったっすねー!」
「ホント! すっげーもん見してもらっちゃった……なんか俺、超感動……!」
生で試し斬りを見学できた感激からか、剛も京も鐘崎も、それを見慣れている紫月以外は全員が興奮のるつぼといったいった調子で頬を紅潮させていた。
「この刀は私の宝物でね。鞘を抜いて実際に試し斬りを試みたのは今日で二度目なんだよ」
感慨深げに紫月の父親はそう言った。
そんな貴重なものを自分たちの為に見せてくれたというわけか――
如何に海外からの転入生の為とはいえど、ほんの学生の身である自分たちの為にこんなにまでしてもらえるなんて、というようにして剛らは感激冷めやらぬといったふうだった。
そんな様子が可愛く思えたのか、紫月の父親は「ハハハ」と声をあげてうれしそうに笑うと、
「詳しい時代は分からないが、かなりの名刀といわれるものらしい。本当は対になるもう一口と合わせてこその代物なんだが……」
と、その刀の由来に触れた。
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