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第28話

「へえ! それじゃコレ、夫婦刀ってやつッスか? そいつぁーすっげー! 超貴重品っつーか、めちゃめちゃ価値あるんじゃないっすか!?」  またもや京が話の横入りをするように身を乗り出しては、鼻息を荒げながら興奮しているといった様子に、父親の方は微笑ましげにそれを見つめていた。 「まあ確かにな、そういった意味での価値があるといえばそうかも知れないが……どのみち、もう一口の方が揃わないことには何ともね? まあ私にとっては自分の分身といってもおかしくないくらいなのは確かだよ。私の持っているこれは男刀の方で、名前は――」 「残月――」  ふと、それまで京らの後ろでおとなしく見ていた鐘崎が静かにそう口走ったのに、その場にいた全員が驚いたように彼を振り返った。 「その刀の名前は残月。遥か昔に忍びが使ったとされる名刀で、対の女刀の名前は宵月。二つ揃って『朔』と呼ばれる代物だ。夫婦刀には違いないが、その由来は忍びの使いし刀といわれるだけあって、その名の如く――。東の空に現れる『宵月』と西の明朝に姿を消す『残月』が対極にあるように、決して相容れることを許されなかったとされている。まるで新月の夜に忍び逢うことを待ち望むかのような『朔』という名称が悲恋を表しているのだと……。確かそんな言い伝えがあると聞いたことがあります」  生真面目そうな表情で、だが普段の優等生のそれとはまったく雰囲気の違う鋭く澄んだ瞳を伏し目がちにしてそういう彼を、皆は茫然と見つめていた。  こいつは誰だ――?  一瞬、そう思いたくなる程に雰囲気が違う。そんな鐘崎の様子に、驚きを通り越してポカンとしながら、ただただ見つめるしかできないでいた。  しばらくは誰もがひと言も発せずに、硬直というよりは唖然としたような表情で立ち尽くす。中でも滅法驚いたという表情でいる紫月の父親は、鞘を持つ自らの手を少し震わせてもいるようだった。 「――いや、キミ……大したものだ。よく御存じだね? 確かにそんな言い伝えがあると聞いたことがあるが……」  やっとのことでそう相槌ちを返したのは、それからしばらくしてのことだった。そして、半ば謙遜まじりに笑いながら、 「だがしかし……これが言い伝えにある本物の『残月』であるかどうかは分からないがね。何にせそんな大層な由来のものだから、それにまつわってつくられた刀も数あるだろうしね?」  そう言って額の汗を拭いながらも、その焦りを隠そうというわけなのか、わざと照れ臭そうにしてみせた。  だが、もっと驚くような返答が鐘崎の口からこぼれたのはその直後だった。

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