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異世界へ(5)

「そうだ。」 そう言ってサイドテーブルを指差した。 そこにあったのは、自販機で買った時に変に光ったミネラルウォーターのペットボトル! 中身がなく、ボトルだけがくしゃりと歪んでいた。 「それは聖水なんかじゃなくって、ただの水です!」 ルースは首を横に振り 「それのお陰でこちらに来るパワーが強力に働いた。 あの時間、あの場所で、それを持っていたからこそ召喚できたんだ。」 府に落ちない顔つきの俺に淡々と告げた。 「先祖代々から続く水鏡が、お前が生まれた時に教えてくれた。そこに映るのは、王の番のみだからな。 俺はそれからずっとお前の成長を見守ってきたんだ。 こちらに来るのは、いつかいつかと心躍らせながら。 …時が満ちて、あの日時あの場所で、やっと召喚できたのだ。」 「この状況、どう考えたって嘘でしょっ!? タチの悪い悪戯はやめて下さいっ!! TVカメラ何処ですかっ!? 冗談はやめて、早く俺を日本に帰して下さい!! それに番だなんて…俺、男ですよ!? …でも、手当てをしていただいたことは感謝します。」 一気にそう叫ぶと、ルースは悲しい目で俺を見つめる。 「…霙、悪戯でも冗談でもない。 お前は俺の番となるべく選ばれてここに来たんだ。 我々にとって、性別は関係ない。 それに、ここに来た時点で、人間界でのお前に関する記憶も記録も全て消え失せている。 …もうあちらの世界では、お前は最初から存在していないのだ。当然戸籍もない。 お前の名前を告げても、知り合いも、誰も知らない。」 「そんな馬鹿な…」 ちょっと待って… 俺は、偶然あの時間にあの公園にいて、偶々買ったペットボトルを持っていたせいで、ここに連れてこられた、ってことなのか? …俺の存在がないって、じゃあ、俺を知ってる全ての人達が、俺を『知らない』というのか? そんな、そんなことがあるなんて。 嘘だろ? 誰か嘘だって言ってくれよ。 何度瞬きしても、目を擦っても、ルースは消えない。 …握られた手の温もりは…消えない。

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