6 / 191
異世界へ(6)
「そんな馬鹿なことって…」
ふと、俺の手を掴むルースの手が震えているのに気付いた。
「ルース?」
ルースは俯いたまま、何も言わない。
ただ、込み上げる感情を必死で耐えているように見えた。
俺はどうやって声をかけたらよいのか戸惑い、黙ってルースを見詰めていた。
やがてルースはゆっくりと顔を上げた。
「霙、お前の望まぬ召喚だと分かっている。
俺を恨んでいるのだろう?
元の世界と無理矢理引き裂かれたようなものだからな。ましてや存在した証もなくなったのだから。
でも……
でも、ここに来たことを後悔させたりしない。
天地に恥じることなく誓おう。
必ず幸せにする。
だから、この国を俺達を……嫌わないでくれ。」
まるでプロポーズのような言葉。
何故か胸がキュッと甘く疼いた。
絞り出すように告げるルースは、心底辛そうな顔をしている。
嘘は言っていない。
彼の言うことは、きっと全て真実で、心からそう思っているのだろう。
俺が生まれた時から?
これって、俺がそういう星の下に生まれついた、ってことなのか?
じゃあ、親に捨てられて施設に預けられて育ったことや、社畜扱いされていたことやら、全部知っているってことか?
元の世界に俺の存在がないのなら、ここで生きていくしかない、ってことなのか?
「…元の世界には戻れない、って本当か?」
ルースは俺をじっと見つめた後、小さな声で、けれど毅然と答えた。
「もし戻ろうとしても、途中で身体も魂も塵と消えて、二度と輪廻できなくなる。
…完全に存在が消える。」
嘘だろ…いや、現実だ。夢じゃない。
俺は、何者かにはっきりした意思を持ってこの世界に連れて来られた。
この龍王の嫁として。
嫁になるかどうかは置いといて、この世界でしか生きられない、っていうのは理解した。
龍王…ルースは俺が生まれた時から見ていた、と言っていたな。
ともだちにシェアしよう!