8 / 191

異世界へ(8)

ぽた…ぽた………あれ? スープが滲んで見えなくなってきた。 慌てて目を瞬かせると、頬に何か冷たい物を感じる。 そっと手をやると…涙だ。俺、泣いてる。 美味しい、って思えるのは生きているから。 そうだ。俺、生きてるんだ。 嗚咽を漏らしながら泣く俺をルースもガルーダも黙って見詰めていた。 俺は、しゃくり上げながらもスプーンを口に運ぶ。 時間は掛かったけれど、皿は空っぽになった。 お腹も胸も、一杯だ。 その頃には俺の涙も止まっていた。 「お代わりは如何ですか?…そうですね、また後でお待ちしましょう……霙様、色んなことを詰め込みすぎましたね。 少し横になられますか?」 もういらない、と首を横に振る俺に、ガルーダが皿を下げながらさり気なく、横になるのを手伝ってくれた。 うん…少し眠りたい。 何が何だかよく分からない。分からないけど、ここでしか生きられなくなっちゃったみたいだ。 『みたい』じゃなくて、そうなんだ。 今は…ゆっくり眠りたい。 ちゃんと寝たら…絶対に朝が来る。 どんな人にも平等に。どんな気持ちでも絶対に。 だから今は… そう思っているうちに、段々と睡魔に襲われていく。 側でルースが 「眠ってしまったらまた意識が戻らなくなったりしないのか!?」 等とガルーダに食ってかかっている声が、段々遠くに聞こえるようになってきた。 軽くいなされたらしく、ルースは俺の右手をそっと握ってきた。 温かなその手を振り解くこともできず、俺はルースに手を預けたまま、夢の中へと引き摺られていった。 夢現の中でルースが囁く声が聞こえる。 「よかった…出会えて本当によかった…霙、お前は俺の希望の光なんだ。 頼む。何処にも行かないで。俺の側にずっといてくれ。 お願いだ…」 祈りを捧げるような切ない呟きに、俺は何とも言えない不思議な思いを抱きつつ、眠りについたのだった。

ともだちにシェアしよう!