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異世界へ(8)
ぽた…ぽた………あれ?
スープが滲んで見えなくなってきた。
慌てて目を瞬かせると、頬に何か冷たい物を感じる。
そっと手をやると…涙だ。俺、泣いてる。
美味しい、って思えるのは生きているから。
そうだ。俺、生きてるんだ。
嗚咽を漏らしながら泣く俺をルースもガルーダも黙って見詰めていた。
俺は、しゃくり上げながらもスプーンを口に運ぶ。
時間は掛かったけれど、皿は空っぽになった。
お腹も胸も、一杯だ。
その頃には俺の涙も止まっていた。
「お代わりは如何ですか?…そうですね、また後でお待ちしましょう……霙様、色んなことを詰め込みすぎましたね。
少し横になられますか?」
もういらない、と首を横に振る俺に、ガルーダが皿を下げながらさり気なく、横になるのを手伝ってくれた。
うん…少し眠りたい。
何が何だかよく分からない。分からないけど、ここでしか生きられなくなっちゃったみたいだ。
『みたい』じゃなくて、そうなんだ。
今は…ゆっくり眠りたい。
ちゃんと寝たら…絶対に朝が来る。
どんな人にも平等に。どんな気持ちでも絶対に。
だから今は…
そう思っているうちに、段々と睡魔に襲われていく。
側でルースが
「眠ってしまったらまた意識が戻らなくなったりしないのか!?」
等とガルーダに食ってかかっている声が、段々遠くに聞こえるようになってきた。
軽くいなされたらしく、ルースは俺の右手をそっと握ってきた。
温かなその手を振り解くこともできず、俺はルースに手を預けたまま、夢の中へと引き摺られていった。
夢現の中でルースが囁く声が聞こえる。
「よかった…出会えて本当によかった…霙、お前は俺の希望の光なんだ。
頼む。何処にも行かないで。俺の側にずっといてくれ。
お願いだ…」
祈りを捧げるような切ない呟きに、俺は何とも言えない不思議な思いを抱きつつ、眠りについたのだった。
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