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怖いもの知らず(1)
ルースは……
政務が忙しいのか、朝イチでやって来ると俺の体調を気にしてひと言ふた言告げると、髪を撫でて名残惜しそうに部屋を出ていく。
夜は、俺が布団に入ろうかという時刻に遠慮がちにノックをして入って来て、これまた遠慮がちにそっと抱きしめた後、「おやすみ」とだけ言って帰っていく。
そんなに激務なのか、王の仕事って。
俺より自分の身体の心配をしろよ。
物凄く疲れてる感満載だぞ。
龍王だか何だか知らないけれど不死身じゃないんだろ?自己管理もちゃんとしろよ。
振れる仕事は部下に振ればいいじゃないか。
やり過ぎるとブラックまっしぐらだけど。
自分ひとりで何を抱え込んでるんだよ。
いつの間にか、そっと抱かれるその時に俺も抱きしめ返すようになっていた。
回した指に触れる背中が少しずつだが痩せていっているような気がしてならない。
気のせいならいいんだけど。
昨夜は、抱き合ってるどさくさに紛れて何かしているなと思っていたら、気が付くと左手の薬指にダイヤモンドが光っていた。
婚約指輪か?そんなの…目を見てちゃんと渡せよ。ばか。
ある日、堪りかねてガルーダに問いただした。
「ねぇ、ガルーダ。王の仕事って休む間もないくらいに忙しいのか?
ルースはご飯をちゃんと食べているの?
ベッドでゆっくりと寝ているの?」
ガルーダは一瞬目を見開いたが、ふっ、と微笑むと
「大丈夫ですよ、霙様。
今は少しゴタゴタしていますが、そのうち片付きます。
もう少し見守って差し上げて下さい。
全て終わればご自分の口から説明されると思います。」
「…何だよそれ。俺には話せないことなのか?
話すに足るだけの相手じゃないってこと?
……そうだよな、俺って異世界のニンゲンだもんな。信用されなくて当然か。
分かった。もういいよ。」
「霙様、そんなことはありません!
それは私の口からではなく」
「もういいってば!」
俺は猛ダッシュで部屋を飛び出した。
「霙様っ!!!」
ガルーダの慌てた叫び声が背中越しに聞こえたが、無視して走り続けた。
八つ当たりだ。完全な八つ当たり。
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