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伴侶の自覚(12)

知らなかった。 ルースのお祖父さん達が、身内である妹に騙されて、悲惨な運命を辿っていたなんて。 そんな悲しいことが起こっていたなんて。 お妃様はたったひとりで異世界に召喚されてきて、1番愛するひとのことを信じ切ることができなかったなんて。 龍王様もお妃様も…それに龍王様を愛してしまった妹さんも……可哀想だ。 「…それでも…愛し合って命を繋いだんでしょう? 2人で納得するまでとことん話し合うことはしなかったの? ちゃんと伝え合っていれば、そんなことにはならなかったはずだよ!? そんな他人の言葉に惑わされるなんて…」 ガルーダは優しくて哀しげな眼差しで俺を見つめていた。 「…そうですね。 言葉にしなければ分からない、伝わらないことも沢山あります。 高貴な出自(しゅつじ)であるがために、いくら大切な番だとはいえ、そう簡単に胸の内を打ち明けることも憚られたのかもしれません。 …あくまでも憶測に過ぎませんが。 霙様…ルース様は、本当に霙様のことを思ってらっしゃいますよ。 あなた方が、愛し合い尊敬し合い、真っ直ぐに新しい龍の国を作っていかれることを心からお祈りしています。」 ガルーダは、いつの間にか流れていた俺の頬の涙をそっと拭ってくれた。 その美しい瞳にも、薄っすらと美しい涙を(たた)えながら。 俺が生まれた時から、水鏡に写る俺をずっと見続け、見守ってきてくれたルース。 俺のいい時ばかりじゃなく、情けなく泣く姿もきっと見てたんだろう。 ふと、俺にとっては初対面の時のルースの声が思い出された。 『ここに来たことを後悔させたりしない。 天地に恥じることなく誓おう。 必ず幸せにする。 だから、この国を俺達を……嫌わないでくれ。』 心底…希うような少し哀しげな声。 深く、深く澄み切った瞳。 優しく俺を撫でる大きな手。 思い出していくと、心が震えてくる。 頑なに閉じていた俺の最後の心の扉が――開いた。

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