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伴侶の自覚(11)
「お妃様もまた…横恋慕する妹君からの
『兄上は、本心は私のことを思っているのに、水鏡の呪いのために仕方なく異世界のあなたを受け入れた。本当なら同じ種族の龍同士で結ばれるべきなのに。』
という巧妙で、まことしやかな諫言を信じてしまった。
それは小さな棘となり、心の中に大きく巣食ってしまったのです。
お二人は愛し合いながらも信じ切ることができなかった。
一度芽生えた疑いの心が邪魔をしたのです。
本来なら…例え龍体化のおそれがあったとしても、番の揺るぎない愛があれば、そうはならなかった。
けれど、掛け違えてしまった心のボタンは二度と戻ることはなかったのです。
それでも、次第に理性を失っていく龍王を助けようとしたお妃様は…猛炎に飲み込まれ、命を落とされました。
龍王の変わり果てた姿を見て狂乱した妹君は、炎の中に飛び込むと、龍と化した王の喉笛に剣を立て、そして自らもその命を……
とても、とても悲しい、そして忘れてはならないこと…
その跡を継いだのは、当時まだ乳飲み子であった前龍王イマルジュ様…ルース様のお父様でした。
龍の国には大昔からの言い伝えがあるのです。
『番を失った龍王はその地位を失う。
だが、心身ともに結ばれたその番は、何者をも恐れることはない。』
そのことから、王妃を失った龍王は、退位するのが決まりとなっています。
先々代の時は、お二人共ご逝去されてしまったのですが…先代のイマルジュ様は、お妃様を亡くされた故に退位され、ルース様に王位を譲られたのです。
望んだ順序での戴冠ではなかった…
龍体化というのは極限の精神状態が引き起こすもの。
龍王は、常に極度の怒りや悲しみの感情を制御せねばなりません。
それには番の真の愛情が不可欠なんです。
ですから…ルース様は、王の血を継ぐ者として、その轍を二度と踏むまい、自分の番にはそんな思いは命を賭けてもさせない、と仰って……
毎日毎日水鏡を見つめては、ひたすらに霙様のことを思っておられたのですよ。」
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