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怖いもの知らず(7)

そのうちに“お嬢”は静かな寝息を立て始めた。 少しは役になったんだろうか。 ここにお医者さんはいないんだろうか。 あの慌てぶりからすると、いないのかもしれない。 ドアの外では慌てふためく声々が聞こえてくる。 「“せきしびょう”だ!」 「アレはもう我が国にはないはずだぞ!?」 「“せきしびょう”って何だ!?」 “せきしびょう”????? そうだ!ドリナ先生を呼ぼう! でもどうやって……あっ!! 薬指の指輪が間に止まった。 手紙!指輪に手紙を付ければ、俺からだっていう証拠になるはず。 外に控える男に声を掛けようとしたその時 「お前は誰だっ!娘から離れろっ!」 凄まじい怒号と怒気に包まれた。 青い髪は逆立ち、今にも飛びかかってきそうな女がドアの向こうにいた。 ひぇーーっ!誰だあれ!?娘?じゃあ、この子のお母さん?…ボスの奥さん? 「あの………この子のお母さん? 俺は(えい)。降水 霙、と言います。 ここに迷い込んできて、この子が高熱だから何とかしろって、この部屋に連れてこられたんです。 多分、麻疹(はしか)だと思います。麻疹って、この世界でもあるのかな… 取り敢えず身体を冷やしてるけど、至急お医者さんを呼んでもらいたい。」 俺の説明、理解できたかな。 暫く俺を睨み付けていた女は、側に控える男達と言葉を交わした後、ゆっくりと部屋に入ってきた。 逆立っていた髪は元通りになり、空気は穏やかなものに変わっていた。 「、大変失礼をしました。無礼をお許し願いたい。 私はその子の母でイルネアと申します。 ……ここには医者はいません。 呼びたくても呼べないのです。 『はしか』とは命に関わる病気なのですか? レイチェは助かりますか?」 尋ねる声は、微かに震えていた。 「俺がいた世界と同じものなら、熱が下がれば大丈夫です。 ただ、稀に脳や肺に後遺症を残すことがあるので、お医者さんに診ていただいた方がいいと思います。 頼めばきっと来てくれるはず。 手紙を出したいので代筆お願いできませんか?」 「…この子を助けてくれるのですか?」 俺は大きく頷いた。

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