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怖いもの知らず(8)

イルネアは自らが書く、とペンを取った。 俺は「長くなるけどごめんね」と断りを入れてからゆっくりと言葉を紡ぐ。 『ルースヘ まず、勝手に出て行ってごめんなさい。 後でどれだけでも謝るから、お願いを聞いてほしい。 イスナの町にお医者様を派遣してほしい。 高熱と全身に赤い発疹、口の中に白い斑点。 俺の世界の『麻疹』と呼ばれる病気によく似ている。 一度掛かれば免疫ができるから、掛かったことがあるであろう、お医者様を数名。 一緒に他の病人も診てほしい。 どうか、どうかよろしくお願いします。 追伸 ガルーダ、八つ当たりしてごめんなさい。 帰ったらちゃんと謝らせて。 ジャティを責めないで。騙したのは俺だから。 霙より』 見たことのない文字の羅列された手紙をイルネアから受け取り、「ごめんね」の言葉とともに丁寧に畳んで指輪に括り付けた。 そして手渡しながら彼女に伝えた。 「これをお城に持って行って、ガルーダに渡すように伝えて。 俺は昔掛かったことがあるから、このままこの子についているから。 イルネア、心配だろうけどお医者様を待とう。」 「霙様…何てお礼を言えばいいのか…私達はあなたを人質にしてお金を巻き上げようとしていたのに。」 「恐らく苦しんでいるのはレイチェだけじゃないと思う。 この町に流行り始めてる。ひょっとしたらあちこちで発生しているかもしれない。 それに、この町にお医者様がいないなら、他の病気で苦しんでいる人もいるはずだろ? その人達も一緒に診てもらえばいい。 その国の民を救い守るのが王族の務めだろ? あ、俺はまだ違うけどね。 あなたもまだなら、移らないように気を付けて。」 「……ありがとうございます…娘をレイチェをどうかよろしくお願いします。」 イルネアから手紙を受け取った男は、丁寧に一礼すると瞬く間に夜の闇に紛れていった。 瞳に涙を一杯に溜めたイルネアは、何度もお辞儀をしてから出て行った。 ふうっ… 俺はタオルを交換し人心地ついた。 ルースは俺のお願いを聞いてくれるだろうか。 ガルーダは怒っていないだろうか。 心配ばかりが頭をよぎっていった。

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