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非常事態(7)

ルース様は手紙を引き抜いて読み始めた。 眉間に寄っていた皺が次第に消えていく。 大きくため息をついたルース様は微笑みながら、私に手紙を差し出した。 一礼して受け取り、急ぎ目を走らせる。 『ルースヘ まず、勝手に出て行ってごめんなさい。 後でどれだけでも謝るから、お願いを聞いてほしい。 イスナの町にお医者様を派遣してほしい。 高熱と全身に赤い発疹、口の中に白い斑点。 俺の世界の『麻疹』と呼ばれる病気によく似ている。 一度掛かれば免疫ができるから、掛かったことがあるお医者様を数名。 どうか、どうかよろしくお願いします。 追伸 ガルーダ、八つ当たりしてごめんなさい。 帰ったらちゃんと謝らせて。 ジャティを責めないで。騙したのは俺だから。 霙より』 「霙様……本当に本当にご無事なんですね……良かった… 流行り病が出たから医者を派遣してほしい、そういうことなんですか?」 「最初は身代金目当てに路地で迷っていた霙様を連れ去りました。取引の道具に丁度良いと。 でも、うちのボスの娘が病で苦しんでいるのを見て自らが看病して下さっているんです。 私らも大昔に罹りましたが…あれは“赤死病(せきしびょう)”です! 若い世代の殆どの者が知らない病でパニックになっています。 おまけに霙様は、イスナに医者がいないことをお知りになって、手紙を…代筆はしておりますが… イスナの民は霙様に絶対に危害を加えたり致しません! 何卒お慈悲を……お願いいたしますっ!」 「…霙は本当に無事なんだな?」 「はいっ!」 「ガルーダ、ドリナ先生に連絡を! この者が言う通り、大昔に流行った“赤死病(せきしびょう)”だろう。俺も幼い頃に苦しんだ覚えがある。今では滅多に聞かない病気になっているはずなんだが。 何処かの国から入ってきたものかもしれない。 このままでは城下にも流行り始めるかもしれん。 エリシオン!すぐさま全軍に、赤死病に罹ったことがある者とそうでない者を分け、まだの者は大至急ワクチンを打つように知らせろ!」

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