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企み(2)

ルースの義弟(おとうと)、ラジェ。 前国王のイマルジュが、ほんの出来心で手を付けた女の子供に当たる。 ラジェを生んだ女は産後の肥立ちが非常に悪くて、ラジェがまだ赤子の頃に命を落とした。 当然の報いだと噂する者もいたが、ルースの母である王妃は『子供には罪はない』と言って引き取り、我が子として育て上げた。 不義の子でありながらも、ルースもまるで実の弟のように可愛がった。 ラジェもルースのことを兄と慕っていた。 本当のことを知るまでは。 ある日、家臣が話しているのを耳にしてしまう。 「全く…お妃様もルース様も、あんな子を実の家族のように扱うとは…」 「何処の馬の骨とも分からぬ女の子供だろ? それを王族の一員として奉らなきゃならんとは。」 「まったくもって怪しからん話じゃないか。」 「本当にイマルジュ様のお子なんだろうか。」 「騙されているのではないのか?」 最初、誰のことを言っているのか分からなかった。聞き間違えかとも思った。 しかし、話が進むにつれ明らかに自分の名が発せられた時、目の前が真っ暗になった。 偉大なる父上は。 あの優しい母上は。 賢く慈愛溢るる兄上は。 俺の本当の家族ではない、というのか? 疑いながらもその家臣達を問い詰めると、自分が不義の子で、その存在は認められたものではないことが分かった。 正気を失いその場で家臣達を殺めてしまったラジェが茫然と立ち尽くしているところを通り掛かったグルディが見つけ、人目につかぬよう自分の館に連れ帰った。 血飛沫を浴び震えるラジェの身を清め、亡骸の後始末を指示したグルディは、ラジェに向かい平然とこう言った。 「ラジェ様。あなたはイマルジュ様の血を引くお方。 誰が何と言おうと王家の直系です。 あなたこそ次の王になるお方です。 戯事に耳を貸す必要などありませんよ。 全てはこのグルディにお任せを。 悪いようにはいたしません。」 ……悪魔の囁きに、ラジェは堕ちていった。

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