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企み(3)

精神(こころ)を病んだラジェが、優しく甘言を繰り返すグルディに心酔するのに、さほど時間は掛からなかった。 ルースが父王の跡を継いでも、ラジェに対するグルディの洗脳は続いた。 『あなたこそイマルジュ様の正式な後継者。 今はまだ第二皇子としての地位に甘んじておられるが、時期が来ればあなたこそが国王に。」 『ルース様さえいなくなれば、国王の地位はあなたのもの。チャンスは確実にやってきます。』 『戴冠式の晴々しいお姿を早く見たいものですな。』 最初に標的となったのは、ルースの母であり、ラジェを我が子のように可愛がってくれた義理の母である皇太后。 彼女の命を秘密裏に奪ったのもラジェの仕業だった。 グルディが密かに遠国から取り寄せた、“老衰に見える薬”を使い、名医ドリナでさえも謀ったのだ。 その弔いには、亡き義母を慕い悲嘆にくれる息子を完璧に演じ、国民の涙を誘った。 次のターゲットは王となっていたルース。 だが、隙がないルースには迂闊に手を出せなかった。 本人に手を出せない以上、他の方法を考えねばならない。 名案が浮かんだ。 番を失った王は蟄居するしかない決まりだ。 となると、ルースの番である霙を消してしまえばいい。 邪魔な霙の存在を。 グルディの洗脳によって、ルースにとって代わりこの国を支配しようという欲に取り憑かれていったラジェは、異世界にいる霙の存在を疎み始めた。 だが、表面上は従順な弟を演じるようにと、グルディに懇々と諭されたラジェは、その一切の狂気を隠し、家族思いの弟を装っていた。 異世界にいる間はどうすることもできず、手をこまねいていたが召喚された今、霙の命はこの手にある、とほくそ笑んだ。 綿密な計画を立てていた正にその時、霙の脱走騒動が起きたのだ。 「この機を逃せば、城内では手を出すことができない。 何としてでも霙の命を亡きものにせねば。 グルディ、決行の時が来たのだ。」

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