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企み(5)
「ラジェ様。
これはまたとないチャンスかもしれません。
ルース様と霙様、2人を一度に闇に葬ることができる…2度とないチャンス……
覚悟はよいですかな?」
ラジェの瞳に深い闇のように真っ黒な炎が揺らめき始めた。
「元より覚悟なんぞ決まっている。
この国は俺が支配する。ルースではない。
そうするべき運命なんだ。」
「そうと決まれば、早速……」
密やかな話し声は闇に紛れていった。
暫くしてひとりの男が呼び出された。
軽々と家々の屋根を飛び越え、町外れの荒屋 までやって来た。
真っ黒な髪に真っ黒なマントを羽織り、全身黒尽くめの怪しい男である。
国境の門番ですら気付かぬほどの身のこなし。
警備の者達もその気配に全く気付く素振りもない。
男は、暗闇にひとり佇むアイルの側に近寄って来た。
「……失礼する。」
「来たか。やっとお前が役に立つ日がきたぞ。
万が一捕まったりしてもこちらの名前を絶対に出さぬように。そうすればお前の家族は一生安泰だ。約束する。」
「分かっている。で?誰を消せばいいのだ?」
「国王の番の霙様を。
…可能ならば2人共、だ。」
一瞬男が、ぐっ、と息を飲むのが聞こえた。
「…国王を支えるべき立場の者がどうして」
「余計な詮索は無用。
ルース様はイスナにいる霙様の元へ行かれた。
2人がイスナから出てくるその時がチャンスだ。
我が国軍も控えているだろうが、お前の腕なら間違いない。
成功した暁には、破格の待遇で迎えてやる。
勿論家族も今まで以上の生活を約束しよう。」
「イスナだと!?……決行はいつだ?」
「早くて2日、遅くとも1週間と言った具合か…
必要な物は全て揃えてやる。
成功を祈るぞ。」
男はアイルを一瞥すると立ち上がり、ひと言何かを告げた後、やって来た時と同じように暗闇の中に姿を消した。
扉の奥に隠れてその様子を見ていたラジェは、湧き上がる乾いた笑いを抑えることができなかった。
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