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イスナの町で(6)
丹念に優しくレイチェの身体をあちこち診ていたドリナ先生は
「お妃様、あなたの仰る通り、そちらの世界で言う『麻疹』……つまりこちらの世界の『赤死病』ですな。
大昔に流行って廃れていたのですが、最近また遠国でその名を聞くようになり、警戒していたところだったのです。
お嬢ちゃん、もう大丈夫だよ。
この子は比較的軽く済みそうだ。
後も残らず綺麗な肌に戻るでしょう。」
「良かった……」
俺は思わず膝の力が抜けて床にへたり込みそうになった。
ふわり
あれ?
空中で抱き留められ、懐かしくて胸躍る匂いに包まれた。
「全く、このやんちゃ猫め。
どれだけ心配させたら気が済むんだ。」
「ルースっ!」
「霙、無事で…本当に無事で良かった……」
俺をぎゅっと抱きしめるルースの広い背中におずおずと手を回した。
その肩が、背中が震えている。
「っ…ルース…ルース…ルース…」
名前を呼ぶことしかできない。
ルースは物も言わず、ひたすらに俺を抱きしめたまま。
時折、愛おしげに頭に頬をすり寄せてくる。
擽ったいけど気持ちいい。
物言わぬルースから雪崩れ込んでくる思い。
それは『愛情』。
たったひとりの番だけに向けられたもの。
それを感じて、次第に俺の中の何かが変わっていくような気がした。
人恋しいのではない。
攫われた恐怖でも、助かった安心感でもない。
色んな感情が混ざり合って、何て表現していいのか分からないけれど。
きっと、きっとこれが『愛』というものなのか。
離れて分かった、魂から求めるこの思い。
ルースから香る、とびっきり甘くて切なくて優しい匂い。
それが、まるで俺のことを『愛してる』って叫んでるみたい。
吸い込む度に胸がきゅうぅっ、と震えて疼く。
俺は…俺は、本当にルースの番なんだ。
これだけは分かる。
どれだけでも謝る、って手紙にも書いたから。
俺もルースを力一杯抱きしめ返して、ひたすらに『ごめんなさい』を繰り返していた。
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