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イスナの町で(7)
えへんおほん、とドリナ先生の咳払いがして、それに気付いたルースは、やっと腕の拘束を解いてくれた。
だが、その力を緩めただけで、俺の腰にはしっかりと腕が巻き付いている。
俺もその温もりを失いたくなくて、ルースの服を掴んでいる。
まぁ、その…しっかりと抱き合っている訳で。
「…失礼しますよ。
子供より大人の方が重症化するので、看病する者は気を付けるように。
取り急ぎワクチン接種をしていきます。
赤死病に罹ったことのない人達を集めてほしい。
そうしておけば、もし罹ったとしても重症化はしません。
今、発症している人の所へ医師を向かわせました。
それが落ち着いたら、他の病気で困っている人達を順番に診ていきます。
重病の人達から優先順位をつけていきますが、必ずみんな診ますから喧嘩をしないように。
お妃様、それでよろしいですね?」
「ドリナ先生…ありがとうございますっ!
ルース、ありがとうっ!」
良かった。
これでイスナの町は救われる。
「霙様っ!」
「霙様、ありがとうございますっ!」
「あなたはイスナを救ってくれた!」
「ありがとう、霙様っ!」
わらわらと俺達の周りに人が集まってくる。
「霙に近寄るなっ!」
怒気を含んだルースの声に、みんな恐れをなして跪いた。
「…ルース、怒らないでよ。
みんな、とにかくドリナ先生達の言う通りに動いて。
お礼なら、お医者様を派遣してくれたルースとお医者様達に言ってね。
はい、解散!」
蜘蛛の子を散らしたように動き出した人達を見て、ルースがひと言。
「お前が国王のようだな。」
そう言って面白そうに笑った。
「そんなつもりはないけど。」
揶揄われて少しむくれて答えると
「俺のやんちゃな子猫は、何処でも誰にでもかわいがられる。
それは嬉しくもあり、妬いてしまいそうになるんだが。
霙は俺だけのものだからな。」
そう言って、また腕の中に俺を閉じ込めた。
やきもち?愛おしさが…増す…
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