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イスナの町で(11)
キリヤが憤怒を孕んだ声音で話し掛ける。
「あっちが仕掛けてくるのをただ黙って待っているつもりか!?
義弟だからと、良心を信じて情けを掛けるのは分かるが、向こうはそんな感情は少しもないと思え。
俺がお前の義弟ならば……この機に乗じて、お前達2人の命を狙う。どちらか片方でもいい、運が良ければ2人とも消える訳だから。
イスナにいるということ自体が、相手にとってはこの上ないチャンスのはず。
『イスナにやられた』と言えば通る話だからな。
それで報復の全面戦争で、用無しになったイスナを叩き潰せば、大義名分が立つし、それを指揮する自分の評価も上々だ。
国民の賛辞を受けて堂々と王位につける。
絵に描いたような筋書きだな。反吐が出る。
おいっ、ハスイラ!」
「はい、ここに。」
「身元の知れない奴がここに紛れ込んでいないかすぐに調査しろ!……外部には漏らすな。」
「承知!」
ハスイラと呼ばれた男はあっという間に姿を消した。
「俺達はイスナの町の者なら皆分かる。
少しでも怪しい奴がいたらしょっぴいてやるから心配するな。
だが、念のためお前達2人には護衛をつける。
何処で誰が紛れているか分からないからな。
ルース。
義弟に肩入れする気持ちはよく分かる。
だが、相手にはもう親愛の情なぞ1ミリも残っていないようだぞ。
しっかりした英断を。」
ルースは黙って頷いた。
繋がれた手に力が籠った。
両親やガルーダ達家臣一同、そして国民から愛され慕われ、愛情たっぷりに育ってきたであろう国王。
慈しみ、思いやり、愛されること愛することがきっと当たり前のルースにとって、義弟の裏切りは信じられないのだろう。
だから刑に処することに躊躇しているのかもしれない。
そんなルースの思いや育ててくれた人達の思いを全く蔑ろにして、己のことのみしか考えられない義弟ラジェに、そして恐らく黒幕のグルディに対して、腹わたが煮え繰り返る思いがする。
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