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イスナの町で(13)

「おっ、おっ、俺っ、俺はっ……あの…えっと…そのぉ」 ルースの顔が一瞬消えた。 ルース!?どこ? いや、消えたのではない。目の前に近寄り過ぎて、視界に収まらなかっただけだ。 そして両頬を固定されると、唇に柔らかいものが当たった。 「んぶっ」 ふえっ!?キ、キ、キスぅ!? 無理矢理にこじ開けられた口の中に、ぬめっ、と何かが捻じ込まれた。 こ、これ…舌っ!舌が入って……うわぁっ! ぬめぬめするし…気持ち悪…くないっ!? えっ、何で? 何で俺『気持ちイイかも』って思ってるんだ!? あうっ、上顎っ!そこ擦らないでっ! そうこうするうちに、俺の頬を包んでいた手が耳に移動し、耳朶を揉んだり(うなじ)を弄り出した。 んっ、擽ったい、けど気持ちイイ。 ん、んっ!? うげぇっ、息、息ができないっ!し、死ぬっ! 苦しくて、ルースの胸をどんどんと叩いた。 ……ゆっくりと…名残惜し気にルースが唇を離した。 「うっ、ごほっ、げほっ、げほっ……はぁっ… ルースっ!何するんだよっ!」 「何って…キスに決まってるだろ。」 「何ドヤってんだよっ!バカっ!」 「…おいおい。痴話喧嘩は他所(よそ)でやってくれ。 とにかく、アンタら2人には護衛をつける。 いつ襲われても不思議ではないからな。 まぁ、このイスナの町にいる間は俺たちの目が光ってるから安心だとは思うが…油断はするなよ。」 「キリヤ…感謝する。」 「なーに、いいってことよ。 俺達だって、そこのお妃さんのお陰で娘も町の(もん)も命を救ってもらったんだ。 恩返しには足りないくらいだが…ルース、相手はどんな手を使ってくるか分からねぇぞ。 さっきも言ったが…いくら血縁者、それに先代からの重鎮とはいえ情けは禁物だ。 アンタが守るべきものは何か。 それをしっかり頭に叩き込んで忘れるなよ。 客間で休んでくれ。 今案内させる。」 頷いたルースは、俺の腰をしっかりと抱き寄せた。

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