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イスナの町で(15)

ルースは、すり、と俺の頬を優しく撫でた。 「霙…すまなかった。 お前を思うあまりにその気持ちが裏目に出てしまったのか。 …そうだな。お前はしなやかで強い。 だが、私にとったらかわいくてならない子猫のようで、どうしても過剰に守りたくなってしまうんだ。」 ルースは俺の手を取り立ち上がらせると、今度は逆に跪き、俺を見上げて言った。 「霙、もう二度と俺を置いて何処かへ行ったりしないと誓ってくれ。 お前だけを見つめて続けて、こちらに来るのを今か今かとずっとずっと待っていたんだ。 …時が満ちて、ようやくこの腕に抱きとめることができたのだ。 頼む。 俺の側を離れないで。 俺を…俺の国を…嫌わないで……」 「ルース……」 「霙、お願いだ。俺を愛して。」 金色の瞳に薄っすらと涙の膜が張っている。 この国のトップで、美形で屈強な男が俺の前に跪いて懇願している。 きゅうぅっ、と胸が締め付けられた。 これ以上言わせてばかりではダメだ。 俺もちゃんと伝えないと。 俺はルースの手に、自分の手をそっと重ねた。 「二度と、二度と黙って出て行ったりしない。 ……ルース……愛してます。」 その時のルースの顔は忘れることができない。 これ以上ない程に見開かれた目から、ぽろぽろと涙があとからあとから零れ落ちてくる。 くしゃり、と歪んだ顔が近付いてきて、優しく唇を奪われた。 密着する肌は熱を帯びて、お互いの存在を確認するように、布越しに撫で摩る手の平の動きも加速していく。 俺はルースの頭を固定すると、長い長いキスを仕掛けた。 ルースもそれに応えて濃厚なキスを返してくる。 静かな室内に、俺達のキスの音が響く。 命を狙われていて ここがイスナの地で ドアを一歩出れば誰かがいて なんてことはどうでもよかった。 ただ、目の前の愛おしい伴侶の温もりを感じたい、止めどなく溢れるそんな思いに突き動かされていた。

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